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1/6/2026, 1:37:57 PM

冬晴れ

 夏、晴れた日は空気にむらがある。
 藻が漂う沼の中を歩いたらこんな感じなのだろうと思う。
 冬晴れの日は眩しくて、乾き切って清潔で均質なものがみっしりと詰まっている。
 だが実際に歩き出すと、それが絶え間なく顔を引っ叩き、鼻をぎゅっとつまんできて痛い 痛い 痛 い 痛 い
 最近は秋がもっともっと長ければいいのにと毎日思っている。

 
 

1/4/2026, 4:47:22 PM

日の出

 まだ、この目で見たことがない。
 今まで読んだすべての物語の描写から、きっと綺麗なはずだと思っている。


 目覚めて外が暗いと、いつも安心する。
 まだ外に出なくて良いし、何か素晴らしいことが始まったりしないからだ。
 不意に目覚めて外が明るいと、いつも不安になる。
 新しくも記憶さるべき日を過ごさなくてはいけないような、何かそんな居心地の悪さが膨れ上がってくる。

 いつか眠れない夜に、日の出まで起きていてそのすべてを見届けたら、もしかしたら朝は怖いものではなくなるかもしれない。
 

1/3/2026, 9:54:50 AM

今年の抱負

 今年こそ◯◯する、と言わない
 自分が好きだったものを思い出す
 思い出したものを大切にする

 がんばる。

1/2/2026, 10:02:20 AM

新年

 本から目を上げたら日付が変わっていた。
 今年こそは毎年本を読む、と勢い込んでいたのを思い出し、手帳に印をつけた。
 新年にふさわしいという訳でもない、気楽に読めるミステリである。
 明日も読もうと思う。

 追記:一日夜の七時から、人生で初めて豚の角煮を作った。盛り付けて食べようとしたら、また日付が変わっていた。

6/22/2025, 3:32:09 PM

君の背中を追って

「出たら駄目です。今度脱走したら階段壊しますよ」
 やだ。そしたら地下室から出られなくなっちゃう。
「いい子でね」
 やだやだ、一緒に連れてって。ニンゲンの意地悪。
「夜には帰ります。それじゃあ」
 さみしい。それに心配。外は危険でいっぱいなのだ。か弱いニンゲンを守ってあげないと。

「何をしてるんです」
 なぜまたばれた。そしていつの間に後ろに。ばれないよう、密かに追ってきたはずなのに。
「理由は三つ。この暑さのなか長袖の外套に手袋。外見年齢に対して堅苦しい服装。とどめは帽子に色眼鏡。外に出て何分経ちましたか?」
 五分。嘘です、十四分です。
「十四…こっちへ」
 ぐいぐい連行されつつ周りのニンゲンを観察する。確かに、誰も帽子をかぶってない。でもニンゲンって僕たちより目が悪いんだよね、やっぱりこの光の所為じゃないかな。眼鏡いらないのかな。

「らっしゃーい」
 玄関ドアに大きなベル。僕の地下室のドアにもついてる。そしてどうやら、ニンゲンとはベルが鳴ると飛んでくるものらしい。
「すみません警察の者です、ちょっと緊急で」
「あどうも…地下室すか?」
「あるんですか」
「葡萄酒置場すけど、ご案内します」
 ひんやり。酒瓶が山程、それから小卓と椅子が二つ、とっても清潔。うん。僕たち二人にぴったり。うんうん。
「じゃあ、日没後に迎えに来ます」
 やだー。
「此処に入れてもらえて幸いでした。うちから十四分、まっすぐ帰れたとして十四分。合わせて二十八分ですね」
 それくらい分かるもん。
「もうじき正午です。この時間帯に貴方が外に居られるのは三十分まで。三十から二十八を引くと?」
 …二分です。
「その間に何かあったら貴方は死にます。俺は八つ裂きで済むかどうか」
 やだやだごめんなさい。待ってます。
「お腹は空いてませんか? 大丈夫? じゃあ、仕事に戻ります。あのすみません、飲み物は飲めるので、何か出してやっていただければ…あ、お酒はまだ無理です」
「お茶かミルクすかね。あ、苺のシロップなんてのもありますよ」

 いちご牛乳、おいしい。血より美味しいかもしれない。血はテキゴウシャ、つまり彼からしか貰えない。これに切り替えたら、今よりは嫌われないかな。でも捨てられちゃうかもしれない。そしたら此処に住もうかな。さみしい。お部屋に戻りたい。
「失礼しまっす。お迎えっすよー」
 !
「今日は本当にありがとうございました」
「いいえー。ウチもツレがご同類なんで慣れてんです。夜はツレがやってまして、お子さま連れでも安心な店ですんで是非またお二人でー」
「ありがとうございます。…じゃあ帰りましょうか」

 お子さまですと。僕は君たちよりずっと年上、七十二歳なのですぞ。
「年上だし寿命も長いでしょうが、我々に換算したらかなり若いですよね。俺に置き換えると今いくつですか?」
 十七。
「俺は嘘が嫌いです」
 歩くの速い。背中広い。待って待って。
「もう一度訊きます」
 …十二歳。
「本当に? 七歳じゃなく?」
 ちょっと失礼だと思うのです。僕だってすぐに君くらい大きくなって、あんなお店でお酒をのむようになるんです。
「…だいぶ先になりそうですね。そのためにも早く帰って、栄養を摂りましょうか」
 それから彼は、自分が僕より間違いなく先に死んでしまうこと、ずっと一緒にはいられないこと、だからなるべく危ないことをしてほしくないと思っていること、などをとつとつと話した。知ってる。そう、知ってる。
 斜め後ろから彼の袖口をつかんでいたら、彼は手を繋いでくれた。大きくてあったかい。
 頭の中に、君の背中を追っていく小さな僕が見える。追い抜いて、早く年をとれたらいいのに。

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