またね!
子どもの頃から、幾度も見る夢がある。黒っぽくて何処か靄がかかったような人が自分の頭を撫でて、「またね」と云う。目が覚めるとそこは病院で、自分は何やら死にかけていたらしいことを知る。そんなことが度々あった。
「今日こそ迎えに来たよ」
「行かなきゃいけないの?」
「…そうだね」
目の前で、父と母が僕の手を握っている。何か呼びかけているのだが、僕には聞き取れない。これでさよならなんだろうか。
「…何処に行くの?」
「次の場所。大丈夫、みんなそこへ行くんだよ」
「パパもママも来る?」
「必ず来るよ」
「…あなたについて行って大丈夫なの?」
「僕は案内役だから、ぜひ信じて欲しいんだけどな」
「だって、なんか死神みたいな格好なんだもの」
「…君たちがお葬式で着る色にしてるんだけど、何か変?」
「すごく言いにくいんだけど、マンガやアニメによく出てくるカッコつけた敵っぽい」
全身黒ずくめで、パパが「とっくり」と呼んでいるセーターと同色のボトム。僕はまだ子どもだけど、ついて行ってはいけない気がする。
「これじゃ駄目かな? 場所も宗教も選ばなくていいかと」
「カンコンソーサイは背広でってパパが言ってた」
「…担当者に相談してみる」
両親はまだ僕に呼びかけている。
「これで一旦最後だから、思い残したことがあったら伝えてあげてほしい」
「…ありがとうって。それから、」
またね!
願いが1つ叶うならば
《おほしさまの じかんです》
そう書かれたスケッチブックを掲げて、わが家のちっちゃな幽霊が入ってきた。
そう言えば今日は、年に数度の流星群の日である。前に話したのを覚えていて、知らせに来てくれたらしい。
「そうだね、よし、見に行こうか」
かれは両手を上げて喜んでくれた。シーツを頭からすっぽり被っていても、喜怒哀楽は結構伝わるものである。
訊けば、流れ星を見たことはまだないと云う。
「願い事をしなきゃね」
《?》
「『流れ星』と呼ばれるものは、細い光が尾を引いて流れていくんだけど、その光が消えるまでに願い事をすると叶う、って言われてるんだよ。ちなみに、とっても速いです」
《!》
僕だけ服を着込んで、望遠鏡も持って。
庭先にシートを広げて、椅子とたっぷりの毛布を出して、かれをしっかりとくるむ。子どもはただただ、暖かくしてやりたい。たとえその子がもう生きていないとしても。
《!!!》
「見えた? 願い事はできたかな」
かれは下を向いてしまった。
「光ってから書くと間に合わないかもしれないね…書いておいて掲げるのはどうかな?」
かれが書き上げた願い事は、
《 ゆ っ く り ! 》
気持ちはよく分かる。だが。
「…えっとね、残念だけど、お星さまにはゆっくりできない事情があるんだよ」
《 ⁈ 》
流れ星のメカニズムについて、宇宙を漂う塵が云々〜、とつい語ってしまった。なるべく噛み砕いて伝えたつもりだが、大丈夫だろうか。
「そんな訳で、お星さまは頑張ってもあんまりゆっくり動けません。だから、ほかの願い事があったら、書いてみてほしいな」
二つほど星が流れたあとに見ると、かれはこう書いていた。
《このおうちに ずっといたいです》
かれがこういうことを書くたびに、僕はたまらない気分になる。
この子は僕がまだ子どもだった頃、この先にある家に閉じ込められていた。そして身体的、精神的、性的なあらゆる虐待を受けて、誰からも探されることなく生涯を終えた。
この子と知り合ってから、自分なりにその事件のことを調べてみた。この辺りでは知らぬ者のない、連続児童殺害事件である。本当に恥ずかしいのだが、あまりのおぞましさに途中で調べるのをやめてしまった。僕は卑怯者だ。
それでも、一つだけ強く思っていることがある。僕はこれまで、「目に見えないものは病原菌しか信じない」で生きてきた。でももし天国だとかそういうものがあるのなら、この子は真っ先にそこへ行くべきだ。
だから、もし願いが一つだけ叶うなら、どうかこの子に幸せになってほしい。
「君は居たいだけうちに居ていいし、どこでも行きたい処へ行っていいんだよ」
《 こ の お う ち 》
「…分かった。じゃあ、此処で君がしてみたいこととか、なりたいものはあるかな? せっかくだから願ってみよう」
一呼吸置いて盗み見ると、かれはこう書いていた。
《まほうつかいに なりたいです》
これは難しい。
翌日、町まで出て書店に寄った。
児童書のコーナーで『まほうつかいになる方法』なる絵本を見つける。素晴らしい。
どうやら、まずは杖が必要らしい。本を買って帰り、かれに見せた。
「どんな杖がほしいかな」
《すごいまりょくがある つえがほしいです》
「君はとっても素敵な子だから、きっと手に入るよ」
大人とは、平気で嘘をつける人間のことでもある。
「…詳しそうな人に相談してみようか」
次の日、僕たちは町に出かけて、玩具屋のご主人を訪ねた。電池式のキラキラ光る杖(先端に大きな星がついている)は、かれの心をとらえたらしい。
「これは魔法使いを目指すひとのためのものでね、いきなり魔法が使えるとは限らない。それでもいいかな」
かれはすっかりご機嫌である。
それ以来、夕食後になるとかれはお気に入りのクマのぬいぐるみに向けて杖を振っている。どんな魔法であれ、道は遠そうだ。
ところが、転機は意外と速く訪れた。
ある日の夕方、望遠鏡を外に出していると子どもの声がする。七歳くらいの女の子で、父親とハイキングに来てはぐれたと云う。
毛布にくるんで椅子に座らせ、まずは警察に…と思ったところへ、名前を呼びながら父親が駆け寄ってきた。懐中電灯を出して彼らの車まで送って行くと、その女の子はこう言った。
「歩いてたらすごく古いお家があって、何だか暗くて怖かったの。そしたらお星さまがきらきら光って動いてるのが見えて、着いて来たらおじさんがいた」
「きっと、親切な魔法使いが君を助けたんだね」
町に泊まる予定だという二人と別れてわが家へ戻ると、かれはまたクマに向かって杖を振っていた。
「おめでとう。君は今日、すごいまほうつかいになりました」
《?》
「あの女の子ね、お父さんに会えてすごく喜んでたよ」
かれはひとしきり両手を挙げて喜んだあと、
《あそこは わるいばしょです》
と書いた。
「うん、あの子が辛い思いをしなくて良かった。君は魔法を使ったんだよ」
かれは僕にぎゅっと抱きついてきて、《しあわせ》と書いてくれた。
結論。かれの願い事は叶い、僕の願い事も叶った。
一つだけ問題があるとすれば、最近かれが「さいきょうのつえ」に興味を示し始めたため、わが家の付近では時折、夕方に小枝が浮遊する怪奇現象が目撃されるようになったことである。
question
土曜の午後に家を出たら、すべてが
?
に変わっていた。
人の顔、看板の文字、コーヒーショップのメニューの写真に至るまで、何の情報も読み取れない。
カフェに入ってみると、人の発する言葉も理解できなくなっていた。
店員の声の高低と仕草を頼りに「一人」と示し、メニューの記憶を頼りにドリアとコーヒーを頼んだ(なぜか、自分の声は聞き取れた)。
ドリアは何やらどぎつい色の「?」が盛られていて、何の味もしなかった。コーヒーは芥子粒のように小さな「?」で満たされていて、飲んでみると液体だったがやはり味はしなかった。
失礼ながら以前も「美味しい」とまでは思っていなかったのだが、何だろう、本当に何の味もしない。
観たかったリバイバル上映の映画は今まで通りにちゃんと見えたし字幕も読めたが、いつもほど楽しめなかった。
週末ごとに行っているバーには、怖くて行けなかった。
週が明けて、恐る恐る会社に行った。同僚も上司も全く見分けがつかない。ただ、幸運なことに「仕事上必要な指示」だけは聞き取れた。声は別人、というより人とは思えなかったが。
人の顔も分からず、本も読めず、音楽も聴こえない。味も香りも分からない。ただ、元々親しんでいたものや、本当に必要なものは分かるらしい。
週末、バーに行ってみた。
「ラヴィアンローズを」
ショートグラスに並々と注がれた、きめ細やかな「?」を見て、一気に呑み干して帰った。
三週間後、思い立ってまたバーに行った。「?」はともかく、店長とは会話できていたらしいことを思い出したのだ。
「お久しぶりです」
いつもの、店長の声だった。
「ラヴィアンローズをお願いします」
「かしこまりました」
準備しながら、しばらく来ないので心配していた、少し元気がないようだが云々と店長(見た目は「?」の塊)が言い出したところでドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
「一人です」
久しぶりに聞く、知らない人の声だった。
「では、こちらのお席へどうぞ」
彼は僕の横に座った。今日は割と混んでいる。
シェーカーを振る軽快な音がして、目の前にグラスが置かれた。久しぶりに見る、綺麗な赤だった。
「綺麗ですね。…ぼくも何か、赤い色のショートをお願いします」
店長は「コープス・リバイバー」を勧め、作って出した。
僕は時計を見るふりをして、彼を盗み見た。
彼は人間の姿をしていた。
その後のことはよく覚えていない。泣いたか、すごく呑んだか、その両方かだ。
最近、僕たちはよくあのバーで偶然一緒になる。そしてたまたま隣に座る。最後には赤いカクテルを呑み、「また」と言ってそれぞれの家に帰る。
「?」はまだ消えてはいないが、少しずつ減ってきている。
ところで最近、彼の頭の上に「answer」と見える気がするのだが、これは僕が都合よく期待していることと関係しているのだろうか。
その質問は、まだ怖くてできない。
やさしくしないで
「折り入ってご相談が」
「何? 結婚生活? それとも人間の感情とやらについて?」
「その両方です」
「死ぬほど聞きたくないけど一応聞くから、見張りだけ気合い入れて頼む」
コイツは俺たち二人の上司と結婚している。内容によっては上司に撃たれそうだし、そもそも何かものすごくしょうもないことだという予感がする。
「今朝出がけに、あまり優しくしないでほしいと言われたのですが、どう振る舞えば良いのでしょうか。そもそも優しさとは何かを全く理解できていないことに気付きました」
「理解しなくていいから、お前なりに大事にしてやんな」
相手の嫌がることはせず、足りてないっぽいものを用意し、心の中の密かな望みを頑張って推測し、それを何とか叶える。それくらいの適当な感じでOK。うん、俺もこの当直があけたら甘いもん買って帰るわ。ウチの妻も今日は夜勤でな。お互い頑張ろう。
「適当な感じで」
「多分だけど、そうしてくれるからお前と一緒になったんだろ」
「ですが、それを嫌がっているという事実が」
「あの人の私生活は全く知らんけど、色々辛かった人が急に幸せになると不安になるってことはあるらしい。失くすのが怖いんだろうな。おおかた、前にロクでもない男に引っかかった記憶が…とかじゃねえの」
「…悪い男ならいました。いえ、います」
聞いてはいけない感じの話が来た。頼むから真顔になるな。
「お前は知らんだろうけど、お前と結婚してホントにあの人落ち着いたのよ。だから『人間とは〜』とか考えずに、お前んちの普通にするのが一番だと思う」
「分かりました、ひとまずいつも通りにします」
狙っていた容疑者は現れなかったが、帰りがけに常連らしきゴロツキが若い店員に絡み出した。色々と法律的に真っ黒なセリフが聞こえてくる。
我が同僚はそのテーブルにスッと近づき、注意をひこうとして拳でテーブルを(コイツ基準で)軽く叩いた。ちなみにコイツは法律上は人間なのだが、「人間が造った存在」である。その気になれば素手で石壁をぶち抜ける。
テーブルはブチ壊れ、震えるゴロツキは俺が引き取った。ヤツは必ず弁償しますと店主に必死に頭を下げている。
「責任を持って弁償させますので、どうかこちらへご連絡をお願いします。ついでになんですが、最近こんな男が来店したことは…」
ゴロツキはその若くて細っこい男の店員にしつこく言い寄っていたらしい。上司だったら撃っていたかもしれない。店主にはむしろ感謝され、弁償の約束をきっちりして店を後にした。
「この馬鹿片付けたら終わりそうだな」
「今日はありがとうございました」
「ああ、とりあえずウチ帰ったらいつも通りにしとけや」
再び出勤。上司(見た目は若くて細っこい)がやる気のない顔で始末書を書いている。書き慣れているからか、速い。訊くなら今である。
「プライバシーの侵害してもいいすか」
「質問によるね」
「旦那は優しいですか」
「…普通」
「どんな感じに」
「いつもの当直明けと同じ。ジャスミンの花束を買ってきてくれて、一緒にごはん食べて、一緒にお風呂に入った。あ、あとクッキーも作ってくれた。大きめのチョコチップクッキーで、三枚食べようとしたら叱られた。ちなみにこの質問の意図は?」
「突然正気に戻らないでください。円満な結婚生活の参考にと思って」
「君のところは順調?」
「まあ普通っす」少なくとも俺は幸せだ。
「私は何でこんなに優しくしてくれるのかなっていつも思いながら生きてるんだけど、もうこの子(※身長六フィート六インチ)は優しさだけでできてるから、それをとったら彼じゃなくなるなと思って、積極的に享受していくことにした」
「いっすね」
「ところで、折り入って相談があるんだけど」
「何すか」
「最高の配偶者を得たけど自分がクズで何も返せそうにない場合、君ならどうする? どうすればいいの?」
「クッキーを二枚までにすれば全部解決っすね。無理そうなら、向こうの要望をなるべく受け入れてください」
「いつも『そのままでいてください』って言うんだよ」
「じゃあもうそのままでいいんで、三枚食おうとして叱られててください」
「そうする。ありがとう」
幸せそうだ。俺ももっと幸せになろうっと。
わぁ!
間の抜けた大声を上げながら、八歳になる甥っ子が廊下を走っていく。その後ろで、二回りほど小さなうちの子がシーツを頭からすっぽり被り、両手に赤いミトンをはめて、《わぁ》と書かれたスケッチブックを掲げて伴走している。
「おうちの中で走らないの」
姉の急な入院で預かって一週間。二人とも、少しは元気になったようで良かった。
数日前のこと。聞いたこともないような叫び声が響き渡った。
男の子というのは、変声期前であっても意外とダミ声というのか、とにかく辺りに響く声を出せるらしい。
自分はこんな声を出したことがあったか…いや、それよりも我が家で今叫び声を上げられるのは、一昨日来た甥だけだ。何があった、と腰を上げたところへ、うちの子が現れた。
《とったの》スケッチブックにそれだけ書いてある。
「何かあった? ゆっくり書いて教えてほしいな」
この子は声を出さない。おそらく出せない。
「叔父さん、この家なんか変なのがいる‼︎」
甥っ子が飛び込んできた。途端にうちの子は僕の後ろに隠れてしまった。
「変なのはいないよ。ただ最初に話した通り、君より小さい子がいる」
「うん、なんか手袋が飛んでた!」
彼が差し出した手の上には、赤いミトンが片方のっていた。うちの子が最近気に入ってずっと着けているものだ。そっと振り返ると、《とったの》のメッセージが激しく揺れている。右手の手袋がなくなっている。
「…話を聞くから、とりあえずそれを僕にくれると嬉しいな」
うちの子は所謂、幽霊である。
ずっと昔に近所で殺された、身元不明の男の子だ。
何か未練があるのだろうか、ずっとひとりでこの辺りにいた。僕はそうと知らずに引っ越してきて仲良くなった。
とは言ってもこちらはそろそろ中年の独身男だから、
《おともだちに なってください》
と頼まれて頷く訳にはいかない。
ただ、家の裏の丘に行くたびに会うので、家庭環境が心配ではあった(僕は研究者をしており、晴れた日には屋外で寝転んで数式と向き合っている。つまり普通の大人よりもそこに行く回数が多い)。
そろそろ警察かどこかに相談を、と思った時に、思わぬ掘り出し物に出くわしてしまった。
此処は僕が子どもの頃、ひと夏だけ過ごした土地である。その時にこの丘に埋めた宝物の缶を探していたら、出てきたのはこの子の頭蓋骨だった。
その年のハロウィンの日、かれは僕のうちに引っ越してきた。それ以来ずっと此処にいる。ぬいぐるみと本が大好きで、身体は小さいがとても賢い。
子育ての穏やかで楽しい部分だけを受け取っているような生活は、なかなか幸せだ。反面、かれが「とても苦しんで」亡くなったこと、いつ何処へ行ってしまうか分からないことを考えると、何とも言えない気分になる。
そんなところへ、甥っ子がやって来た。
母親が急に入院することになり、あまり会っていない叔父に預けられる(姉とは決して不仲ではないと思っているのだが、家が少々離れている)。叔父の家には間違いなく何かがいて、叔父はそいつの味方らしい…。
今から考えるととても不安だったろうと思うのだが、とりあえずは「いつもの生活」を優先してしまった。何とか一週間くらい、今までの我が家のルールでやっていけるだろう。
甘かった。僕は子どもの頃の自分を美化し過ぎていたらしい。
甥っ子は我が家の居間でずっと回り続けているコマ(うちの子が拾ってきた団栗で作ったもの)に驚き、見つめているうちに怪しげなものに気がついた。
赤いミトンが、コマが止まりそうになるたびにすっと現れて回していく。
興味本位でわざと止めてみると、赤いミトンは必死にポカポカと彼を叩いてきた。引っ張っているうちに、片方が脱げたので取り上げた。その結果が《とったの》という訳である。
ともかくミトンを返すこと。
コマが回るのは物理学の法則によるものであって、それについて知りたければ自分の授業を受けること。
誰であれ、自分より小さな子を悲しませないようにしてほしいこと。
我が甥はちゃんとそれを守ってくれた(物理の授業を除く)。その代わりに、「ふよふよ漂う手袋」と全力で遊ぶことに決めたらしく、うちの子もそれに応えることにしたらしい。
「叔父さん、この子今何してる?」
大体はすぐ横で甥っ子の真似をしている。
馬鹿正直に教えていたら、いつの間にかうちの中が混沌と化していることに気づいた。
おうちの中で走ってはいけません。
ベッドの上で飛び跳ねてはいけません。
クッキーを食べたのは誰ですか。
二人はそのたびに頷いたり首を振ったりする。甥にうちの子は見えていないのだが、動きがぴったり揃っている。
そして今日。
「ママから電話だよ」
連絡が来たら出ることになっている。荷物はもうまとめてある。
甥っ子の声がこれまでと全然違う。色々我慢していたのだろう。
子どもたちは握手をし、うちの子は《またね》と書いたので読んでやった。
バスの中にて。
甥っ子はお菓子を取り出そうとリュックを開け、小さく「わぁ!」と声を上げた。
チョコレートと一緒に、あの団栗のコマが入っていた。
「君にもらって欲しかったんだね」
「叔父さん、また来ていい?」
「もちろんだよ。ただしベッドで飛び跳ねないこと」
あの楽しさを思い出したらもう無理か。我が家でも靴を脱いでいればOKにしようかと思う。
どんな子であれ、子どもはできるだけ楽しく過ごしてほしい。特にその子が、何かを必死に我慢している場合には。