真っ暗な夜に車の窓から遠くに見える街の光を眺めることが、幼い私のちょっとした楽しみだった。
街を照らす色とりどりな数多の光が、流れるようにキラキラする様子が、まるでテーマパークにいるみたいで、心を踊らせた。
「綺麗だね〜!」
妹とそう言いながら、その光を眺めるのが好きだった。
実家は田舎にあったので、家に近づくに連れて街の光が減っていくのが、少し寂しかった記憶がある。
そんな楽しい気持ちも、少し寂しい気持ちもしっかり覚えているのに。
いつからか、窓の外に流れる街の明かりを見ても何も思わなくなってしまった。
それ以前に、窓の外を見ること自体少なくなってしまった気がする。
あの頃キラキラして見えた光も、今じゃただの景色に過ぎない。
それが少し寂しい。
お題『街の明かり』
短冊に書いた願い事は、叶うものだと思っていた。
「お金持ちになりたい」
「あのおもちゃが欲しい」
「〇〇くんと仲良くなれますように」
幼い私は、毎年、そんな子どもらしい願い事をしていた。
そんな願い事の中、小学校2年生に書いた願いは、今でも覚えている。
黒板に掲示された笹のイラストに、それぞれ短冊を貼る時間があった。
そんな、みんなの目につくところで、当時の私は
「パパとママが仲直りできますように」
と言う願いを、無邪気にも掲げたのだ。
ちょうど、数ヶ月前に両親が離婚した時だった。
幼い私には、離婚の意味がイマイチ分かっていなかった。
ただの喧嘩で、また仲直りすれば一緒にいられる。
そう思うようにしていた。
その短冊を黒板に持って行った時、先生が困った顔をしていたのを覚えている。
それに反して私はケロッとして、短冊が願いを叶えてくれるんだと信じて疑わなかった。
それから何年、何ヶ月経ってもお父さんとお母さんの仲は戻ることがなくて、私は、七夕なんて信じなくなった。
お題『七夕』
もう顔も名前も思い出せないけど、10年前の夏休みに出会った、とある友だちとの思い出がある。
歳も知らないし、どこに住んでるかも知らない。
でもあの子は、毎週金曜日になると近所の公園に現れた。
他の曜日に行ってもいない、金曜日だけ。
「家は遠いけど、おばあちゃん家が近いんだ」
と言っていた気がする。
最初は確か僕から声をかけたんだ。
砂場の隅っこでせっせと山を作っている、見慣れないその子を遊びに誘った。
最初こそ戸惑っていたけど、僕たちはすぐに仲良しになって、金曜日が楽しみになっていた。
当時の僕らには連絡手段がなかったけれど、毎週金曜日、必ず公園に集合して遊ぶようになった。
でも一度だけ、その子が来ない日があった。
どうしたんだろうと思いながらも、家も連絡先も知らないからどうすることもできなかった。
その日はいつも帰る時間まで待ってみたけれど、結局その子は来なかった。
「もう会えないのかな」なんて子ども心に思っていたけれど、次の週の金曜日、友だちはいつも通り公園にいた。
僕の姿を見るなり友だちは深々と頭を下げて
「先週は来れなくてごめんね」
と言った。
話を聞くと、先週、友だちのおばあちゃんが亡くなったらしく、公園に来ることができなかったという。
「それでね、おばあちゃん家に来ることももうなくなっちゃうから。だから、今日でお別れなんだ」
「お別れ……」
突然告げられた別れ。
寂しいけれど幼い僕らにはどうすることもできなくて、その時の僕に出来たことといえば、一緒に遊べる最後の日を全力で楽しむことだけだった。
公園の遊具全てで遊び尽くして、お小遣いで買ったジュースで乾杯して、楽しかったのを覚えている。
でも、楽しい時間はあっという間で、夕方の音楽が流れ初めて、別れの時を知らされる。
「楽しかったよ。今までありがとう」
友だちは嬉しそうに笑っていた。
「……また、会えるといいね」
「うん!」
僕は涙を堪えながら、彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
その後も、その公園には通ってみたけれど、やはりあの子に会えることはなかった。
それでも、公園を横切るたび、友だち楽しかった記憶が蘇ってくるんだ。
お題『友だちの思い出』
バイト終わり、家に帰って車から降りた時に眺める星空が好きだ。
空に広がる星々を見ていると、まるで世界に自分だけしか居ないように感じるだ。
特に冬は一段と綺麗で、1日の疲労が吹っ飛ぶくらい心が洗われる。
人に話してもあんまり分かってもらえないけど。
就職しても、歳をとっても、星空を眺めて心を落ち着かせる時間は大事にしたいなと思う。
お題『星空』
「ねぇ、ここの神社有名なところなんだって〜!寄ってみようよ!」
「いいね!行ってみようー!」
友達3人組の小旅行。
行きたいところは大まかに決めてあったけれど、こんなふうにその場その場で気になるところに立ち寄っている。
私たちらしい、そんな旅路が好きだ。
「ここって何の神様なの?」
「うーん、お守りのラインナップ的に、学問とか安産とかかな?」
「曖昧じゃん!何お願いしよう」
「神様関係なしに、好きなことお願いすればいいんじゃない?」
「たしかに!」
「5円玉がいいんだよ〜」と友達が言うので、みんなで5円片手にお賽銭箱の前に立つ。
端の方に書いてある参拝の作法をチラッと見ながら、それらしくお願いごとをする。
(私のお願いごとは……)
「……よしっ!そろそろ行こっか!」
友達の1人がそう切り出したのを合図に、私たちは参拝を終えた。
「みんな何お願いしたの?」
「うーん、内緒!そういうあんたはどうなのさ」
「私も内緒!こういうのは言わない方が叶うって言うし」
「じゃあ何で聞いたの!?」
仲良しでもみんな、お互い何をお願いしたのかあまり検討がつかなかった。
私たちのお願いごとは、神様だけが知っている。
お題『神様だけが知っている』