僕の平穏でつまらない日常を変えたのはアイツだった。
「なぁ、お前もサボり?」
なんとなく気分が乗らなくて、初めて学校をサボってしまったその日。
サボるって何をするんだろうと、とりあえず商店街をぶらついていた時、声をかけてきたのはクラスの人気者だった。
「まぁ、そうだけど……」
「へー、珍しいな!俺も今日はなんか行く気になれなくてさ〜。せっかくだから、一緒にどっか行こうよ!」
「えっ」
あまり話したことないのにそんな提案をされて驚いてしまう。
キラキラしたアイツは、返事を待たずに「それじゃ行こう!」と俺の手を取って駆け出した。
それからゲームセンターに行ったり、コンビニで買い食いしたり、川で遊んだり。
最初は戸惑ったけど、サボってしまったことへの罪悪感が薄れるくらいには楽しかった。
それから、そいつとはよく話すようになった。
僕とは真逆の性格だったけれど、それが新鮮で、いい刺激になっていたのかもしれない。
僕のなんでもない日常を変えた存在。
お題『日常』
私の好きな色、燃えるような真っ赤な赤色。
「私、〇〇さんの髪すごく好きです」
ふわふわとした赤い髪の彼。
夕日の下というのもあって、よりその赤色が映えていて、心から綺麗だなと思った。
「赤色が好きってことですか?」
「もちろん色としても好きですけど、赤が好きだから好きなんじゃなくって、あなたの色だから赤を好きになったんです」
元々、私には特別好きな色がなかったけれど、彼と出会ってからは“赤色”が私にとって特別で、好きな色になった。
「……ありがとうございます」
赤い髪の彼は、その髪色に負けないくらい顔を真っ赤にしていた。
私の大好きな色。
お題『好きな色』
大好きな人だった。
絶望的な状況でも、逃げずに這い上がる姿を見て
「あぁ、この人みたいに生きることができたらな」
と想ったのがきっかけ。
周りの全員が自分に偏見を持っていても、負けずに努力し続ける姿。
どんな人にも優しく強くある姿。
やれやれと呆れながらも、やっぱりいつもまっすぐな目をしていて、そんな姿に憧れた。
住む世界は違ったけれど、間違いなく私の人生いちばんの大恋愛だった。
好きって直接伝えられなくても、一緒になれなくてもよかった。
あなたが存在してくれて、遠くから見ているだけで幸せだったのに。
突然告げられた別れ。ひどく一方的なものだった。
彼も、彼がいた世界も最初からなかったみたいに消えた。
彼が存在した証は手元にいくつも残っているけれど、彼はいない。
大好きだった彼は死んだ。
あなたがいたから頑張れていた。
こんな世界でも、あなたに会うためにずっとずっと我慢して、生きてきたのに。
もう、どうでもよくなっちゃった。
生まれ変わったら、同じ世界で生きられるかな。
次こそは、恋人同士になれるかな。
……途中で投げ出しちゃう、ダメな私には無理かな。
「ありがとう。大好き」
あなたがいたから幸せだったよ。
また来世で会えますように。
お題『あなたがいたから』
「うわっ、雨、降ってきましたね」
「本当だ。帰る頃には止むといいですね」
と口では言いつつ、
(神様仏様、お願いこのままずっと止ませないでください!!)
なんてことを心の中で願掛けしていた。
なんと言っても今日は最近気になる彼と2人きりの閉店作業!!
しかも今日は元々晴れ予報だったから、昼から出勤してる彼は傘なんて持ってないはず!
私はこんなこともあろうかと折り畳み傘を持ち歩いているので、帰りまで雨が降っていたらそれはもう相合傘のチャンス!!
お店の片付けをしながら、脳内で広がる妄想。
「傘ないんですか?私持ってるので、よかったら入ってってください!」
「ありがとうございます。助かりました」
(って感じになっちゃったりして〜!!きゃ〜〜〜!!)
そんな妄想ばかりしていたバチが当たったのだろうか。
あんなに降っていた雨は、帰る頃にはすっかり止んでしまっていて、私の作戦は失敗に終わった。
(まぁそうですよね、そんなうまくいくわけないですよね)
「雨、止んでよかったですね!」
と口では言ったけれど、全然良くない!!
これは当分引きずるだろう……。
お題『相合傘』
パリン
「わっ!ど、どうしよう!!」
弟と家の中で遊んでいた時のこと。
走って逃げていた弟が、お母さんのお化粧机にぶつかって、その衝撃で手鏡が落下した。
お母さんがいつも大切にしていた手鏡。
パリンという小さな音だった。
でも、聞いた瞬間、背筋が凍るような儚くて苦しい音でもあった。
「おにいちゃん、どうしよう、ぼく……」
弟は今にも泣き出しそうで、俺もどうしたらいいかわからなくて。
パッと時計を見ると、お母さんがもうすぐ帰ってくる時間だと気づいた。
このまま破れた手鏡を隠すか。
それとも正直に謝るか。
どっちにしろお母さんに怒られると思った俺たちは、2人とも泣いていた。
「と、とにかくかたづけなきゃ!!」
そう思って、破れた鏡に触れようとした時だった。
ガチャガチャと玄関の鍵を開ける音。
間も無くしてお母さんの「ただいま」と言う声が聞こえた。
「おかあさんだ……!!」
慌てて破片を拾おうとすると
「いてっ!」
小さな痛みが指先に走って、少しすると赤い血が流れた。
「どうしたの!?」
と慌てて駆け寄るお母さん。
破れた鏡と俺の手を見た途端、血相を変えたお母さんを見て怒られるんだと思って身構えたけれど……
「大丈夫!?」
「へっ……?」
怒る時と同じくらい大きな声でかけられた、俺たちを心配する言葉。
「このくらいの怪我で済んで良かったけど、これからは割れたものには触っちゃダメ。お母さんが片付けるから」
「お、おこないの……?」
「鏡はまた買えばいいし、あなたたちが無事ならそれでいいんだよ」
その後はよくわからない気持ちになって弟と2人で大泣きした思い出がある。
あれから数年経った今。
実はあの手鏡は、俺たちが生まれる前に亡くなったおばあちゃんの形見だったと知った。
そんな大切なものを壊してしまったのに、優しくしてくれた母を思い出して、罪悪感でいっぱいになった。
母の優しさが、怒られるよりも、切れた指よりも痛かった。
お題『落下』