以前の私は、将来のことを考えるのが嫌いだった。
自分は大した人間じゃなくて、それに反して世界はすごい人で溢れている。
そう気づいてからは、器用な人と食べな自分をよく比較するようになっていて
「あぁ、あの人たちは立派に大人になって就職して、いい人と結ばれて幸せな人生が待っているんだろうな」
なんて、這いあがろうともせずに嫉妬して。
将来のことどころか、明日のことすら考えたくない毎日だった。
そんな、どうしようもない私のことを好きだというもの好きな人もいて
「あなたが気づいていないだけで、あなたも十分素敵な人ですよ」
そんな、もったいない言葉をかけてくれた。
彼はよく私の良いところを見つけてくれた。
自分じゃ悪いところしか目につかなかったからそれが新鮮で、知らなかった自分をたくさん知った。
そうして少しずつ、彼と過ごす明日が楽しみになっていった。
この先、未来永劫変わらぬ愛を永遠を誓う日。
「これからあなたと歩む未来が楽しみで仕方がない」
涙ぐみながら、心底嬉しそうにそう告げた彼につられて涙が溢れた。
私も、あなたと歩む未来なら怖くないよ。
お題『未来』
1年前のあの日、ちゃんと気持ちを伝えられていたら、今が変わっていたのだろうか。
「今までありがとう!またね!」
1年前、高校の卒業式。
勇気を振り絞って、ずっと好きだった女の子と一緒に写真を撮った。
卒業アルバムの最後のページにメッセージももらって、気持ちも伝えられてないのに浮かれて。
「またね」と言う言葉が、最後の言葉になるって、心のどこかでは分かっていたのに。
もうこれで疎遠になってしまうと分かっていたのに。
結局意気地無しな僕は、最後まで好きだと伝えられなかった。
1年経った今でも忘れられなくて、彼女が上げるインスタのストーリーを見てしまう。
ある日、彼女のストーリーに映る知らない男。
頭を強く殴られたような感覚。
お揃いのネックレスを着けて、彼女は今まで見たことのないような幸せそうな笑顔で。
1年前のあの日、素直に気持ちを伝えられていたら、僕もこの笑顔を隣で見れていたのだろうか。
どれだけ後悔しても戻れないあの日。
お題『1年前』
本を読むのは苦手だった。
長い文章を読んでると眠くなっちゃうし。
漫画ならスマホで読んでるけど、絵がない本は私には難しい。
でも、最近気になる彼は逆みたいで。
教室でも電車でも、いつも分厚い本を読んでいてすごいなーって思ったんだ。
それに、本を読んでる時の表情がすごく真剣で楽しそうで。
私が知らないだけで、そんなに面白いものなのかと。
私も読んで見たら、ワンチャンお近づきになれるかも!?とか考えちゃって。
とりあえず学校の図書館に行ってみることにした。
彼もよく通っている図書館。
(本って色々あるんだなぁ、どれも難しそう。面白くて読みやすい感じの本があればいいんだけどな)
どこに何の本があるかもよく分かってないけど、とりあえず図書館をウロウロしてみた。
(……彼は、どんな本が好きなのかな。やっぱり分厚いやつがいいのかな)
そんなことをぼーっと考えていると
「田山さんも本読まれるんですか?」
「へっ!?」
小さな声で話しかけて来たのは、まさに今考えていた彼。
「あっ、驚かせちゃってすみません。図書館にいるの珍しいなと思って」
「う、ううん!全然平気!!なんか読んでみたくなっちゃったんだ」
いつも目で追うだけだった彼と話している。
静かな図書館だからか、ドキドキと鳴る心臓の音が五月蠅いほど頭に響いた。
「どんな本読むんですか?」
「それが、普段読まないから、何を読んだらいいのか分からなくって……。島崎くんは、いつも何読んでるの?」
「僕ですか?色々読みますけど、最近は近現代の文学なんかにハマってよく読んでます」
「きんげんだい……。何だか難しそう」
その本のことはよく分からないけど、きっと難しい本なのだろうなと思った。
「たしかに難しいのもありますが、読んでみると意外と面白いですよ。それに、漫画で読めるものもあるので、長い本が苦手ならそれもおすすめです」
「本当!?漫画なら私でも読めそう!」
「たしかこの図書館にも置いてあったはずなので、見に行きましょうか」
そうして、島崎くんにオススメされた中から一冊選んで借りることにした。
また明日と別れの挨拶をして、借りたばかりの本を胸に抱いて、ワクワクしながら帰った。
初めて自分から読みたいと思った本。
好きな人が選んでくれた特別な一冊。
島崎くんの言う通り、読んでみると結構面白いもので、その本は私の好きな本第1号になった。
お題『好きな本』
明日はついに運動会当日!
それなのに、空模様はあいまいで、天気予報も雨になったり曇りになったり。
「せっかく練習したのに、延期になるなんて嫌だ!」
と、クラスの全員が口を揃えて言っていた。
みんなの心模様も曖昧みたい。
「みんなでてるてる坊主を作りましょう!」
という、担任の藤崎先生の提案で、帰りの会にみんなで作ったてるてる坊主。
ニコニコしてたり、白目をむいていたり、変顔をしていたり個性いっぱい。
下校時間になっても空模様は変わらず曖昧だったけれど、てるてる坊主を作っている間に、みんなの心模様は晴れになってたね。
「明日、きっと晴れますように」
お題『あいまいな空』
去年の夏。
紫陽花が綺麗に咲く、とある梅雨の日のお話。
「よし!今日も探検だー!」
その頃の私は、夕食後の散歩にハマっていた。
小さい頃から住んでいる住み慣れた町だったけれど、いざのんびり歩いてみると、新たな発見が多くて楽しかった。
可愛い花が咲いていたり、昔は人が住んでいた家が廃れていたり、犬を散歩するお爺さんとすれ違ったり。
毎回ルートを変えて、どんどん足を伸ばしたりもして、小学生の時の町探検みたいでワクワクする。
当時は紫陽花が綺麗に咲いているからと、色んな家の紫陽花を見て歩いては、写真に収めていた。
「あっ、あそこにも咲いてる!」
紫陽花を辿って、辿って。どんどん辿って行く。
そんな旅の末に出会ったのが、可愛らしい子猫の家族。
「かっ、可愛い!!」
野良なのに人懐っこくて、小さな体でよちよち歩く子猫たちは天使のようで。
それからは散歩のルートが一通りになった。
紫陽花がくれた、夏の小さな思い出。
お題『あじさい』