去年の夏。
紫陽花が綺麗に咲く、とある梅雨の日のお話。
「よし!今日も探検だー!」
その頃の私は、夕食後の散歩にハマっていた。
小さい頃から住んでいる住み慣れた町だったけれど、いざのんびり歩いてみると、新たな発見が多くて楽しかった。
可愛い花が咲いていたり、昔は人が住んでいた家が廃れていたり、犬を散歩するお爺さんとすれ違ったり。
毎回ルートを変えて、どんどん足を伸ばしたりもして、小学生の時の町探検みたいでワクワクする。
当時は紫陽花が綺麗に咲いているからと、色んな家の紫陽花を見て歩いては、写真に収めていた。
「あっ、あそこにも咲いてる!」
紫陽花を辿って、辿って。どんどん辿って行く。
そんな旅の末に出会ったのが、可愛らしい子猫の家族。
「かっ、可愛い!!」
野良なのに人懐っこくて、小さな体でよちよち歩く子猫たちは天使のようで。
それからは散歩のルートが一通りになった。
紫陽花がくれた、夏の小さな思い出。
お題『あじさい』
「〇〇ちゃんって、好き嫌いなくて偉いよね〜!」
そう言われることが多かった。
たしかに、基本何でも食べるし、どんな人とでも話すし、何事もほどほどにこなしてはいると思う。
その分、特別好きなものも嫌いなものもないけれど。
こんな私でも、小さい頃は普通に好き嫌いがあった。
特に青椒肉絲に入ってるピーマンが苦手で、いつも残して、母に叱られていた記憶がある。
でもある日、気まぐれで「今日は食べてみよう」って思った日があって、小さな勇気を振り絞って食べたんだ。
やっぱり美味しくなくて、すごく嫌だったけれど、母が「食べれるようになったの!すごいじゃない〜!偉いね」と心らから嬉しそうにするものだから、そのままぐっと飲み込んだ。
私が我慢して嫌いを受け入れるだけで、こんなにも他の人が喜んでくれるんだと驚いた。
それから、成長するにつれて、人間関係でも同じことが言えるなーなんて気づいてからは、好きにもならず嫌いにもならず、ほどほどに生きてきた。
それなのにーー
「〇〇ちゃんはさ、何が好きなの?」
転校してきたばかりにも関わらず、すでにクラスの人気者の彼女は、いつものように人当たりのいい笑顔でそう訪ねてきた。
こういうことを聞かれたら少しドキッとする。だって、特別好きなものなんてないんだから。
「うーん、そうだなぁ。そんなあなたは何が好きなの?」
なんて話を逸らしてみると、彼女は目を輝かせて
「私はね、昆虫が好きなの!!」
「こ、昆虫…!?」
彼女の可愛らしい外見からは連想できない好みに驚かされる。
「えー!お前、昆虫なんて好きなの?女子なのに!」
話を聞いていたであろう、クラスの男子がそんなことを言うと、彼女は怒りもせず悲しみもせず、まっすぐな目のまま、
「女子でも好きなんですー!色んな種類がいてすごく面白いから、みんなも案外ハマっちゃうかもよ!」
周りの人が嫌いと言うものを、堂々と好きと言える、そんな彼女が少しだけ羨ましかった。
「〇〇ちゃんもさ、好きなものあったら教えてよ!もしなければ、これから見つけていけばいいんだし!」
「これから……」
「そう!気づいてないだけで、もうあるかもしれないしさ」
(私の好きなもの、か……)
その場では思いつかなかったけれど、そのうち私にも見つかるかもしれない。
もう少し、自分の好き嫌いに目を向けてみようかなと思った日だった。
お題『好き嫌い』
「ニャー」
いつものように、相棒の白猫と夜の街を徘徊する。
目的もなく、行先もなく。ただただ街を歩く。
こんな時間でもまぁまぁ人がいて、暗い顔をしている人から、ベロンベロンに酔っている人まで、様々なひとがいる。
人混みにももう慣れていて、ぶつからないように避けるのもお手のもの。
まぁ、ぶつかったところで相手は気づかないんだろうけどさ。
「ニャー?」
「なんでもないよ」
毎晩、同じ場所を同じように回っているけれど、一人じゃないから退屈はしていない。
此処にいる理由も分からないまま、今日も夜の街を彷徨う。
お題『街』
「意外と出たね〜!あっ!私もこれやりたい!」
「ほんと!?じゃあ一緒にやろうよ!」
SNSで出会った友人と持ち寄った“死ぬまでにやりたいことリスト”
バンジージャンプにドーナツ大人買い、フリーハグに片道切符の電車旅。
他にもたくさんたくさん、やってみたかったことが出てきて、実行する前から楽しかった。
「もうお腹いっぱいで食べられないよ〜!」
「心臓めっちゃバクバクして怖かったけど、楽しかったね!」
お金のこととか今後のこととか全部忘れて、二人ではしゃいで、やりたかったことやりまくって
100個近くあったやりたいことリストも最後の一つになった。
「はぁ〜。楽しかったね」
「そうだね」
「私のやりたいことに付き合ってくれてありがとね」
「こちらこそ!あなたといろんなことができて、本当に楽しかったよ」
私たちの最後のやりたいこと。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「うん。天国でもまた二人でやりたいこと見つけようね」
やりたいことNo.100 二人で天国に行く
お題『やりたいこと』
朝が嫌いだった。
辛い、辛い1日の始まり。
五月蝿い目覚ましを止めて、ベッドから鉛のように重たい体を起こす。
沈んだ気分のまま、生きた死体のように淡々と身支度を済ませて家を出る。
ずっと、そんな朝が嫌いだった。
はずなのにーー
「おはよう」
私の隣で、優しい笑顔で微笑む彼。
「……おはよ」
「あはっ、超眠そう。ごはん作ってくるから、もう少し寝てな」
そう言って私の頭をふわっと撫でて、カーテンをサッと開ける。
「眩しいよぉ……」
「我慢しなさい。陽の光浴びた方が目が覚めるんだってさ」
昔は、1日の始まりを告げる無慈悲なものとしか思ってなかった朝の日差し。
今では、なんだか少し温かく感じる。
暖かな日差しを感じながら、ふわふわと2度目の眠りについた。
お題『朝日の温もり』