猫とモカチーノ

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「〇〇ちゃんって、好き嫌いなくて偉いよね〜!」

そう言われることが多かった。
たしかに、基本何でも食べるし、どんな人とでも話すし、何事もほどほどにこなしてはいると思う。

その分、特別好きなものも嫌いなものもないけれど。

こんな私でも、小さい頃は普通に好き嫌いがあった。

特に青椒肉絲に入ってるピーマンが苦手で、いつも残して、母に叱られていた記憶がある。

でもある日、気まぐれで「今日は食べてみよう」って思った日があって、小さな勇気を振り絞って食べたんだ。

やっぱり美味しくなくて、すごく嫌だったけれど、母が「食べれるようになったの!すごいじゃない〜!偉いね」と心らから嬉しそうにするものだから、そのままぐっと飲み込んだ。

私が我慢して嫌いを受け入れるだけで、こんなにも他の人が喜んでくれるんだと驚いた。

それから、成長するにつれて、人間関係でも同じことが言えるなーなんて気づいてからは、好きにもならず嫌いにもならず、ほどほどに生きてきた。

それなのにーー

「〇〇ちゃんはさ、何が好きなの?」

転校してきたばかりにも関わらず、すでにクラスの人気者の彼女は、いつものように人当たりのいい笑顔でそう訪ねてきた。

こういうことを聞かれたら少しドキッとする。だって、特別好きなものなんてないんだから。

「うーん、そうだなぁ。そんなあなたは何が好きなの?」

なんて話を逸らしてみると、彼女は目を輝かせて

「私はね、昆虫が好きなの!!」
「こ、昆虫…!?」

彼女の可愛らしい外見からは連想できない好みに驚かされる。

「えー!お前、昆虫なんて好きなの?女子なのに!」

話を聞いていたであろう、クラスの男子がそんなことを言うと、彼女は怒りもせず悲しみもせず、まっすぐな目のまま、

「女子でも好きなんですー!色んな種類がいてすごく面白いから、みんなも案外ハマっちゃうかもよ!」

周りの人が嫌いと言うものを、堂々と好きと言える、そんな彼女が少しだけ羨ましかった。

「〇〇ちゃんもさ、好きなものあったら教えてよ!もしなければ、これから見つけていけばいいんだし!」
「これから……」
「そう!気づいてないだけで、もうあるかもしれないしさ」

(私の好きなもの、か……)

その場では思いつかなかったけれど、そのうち私にも見つかるかもしれない。

もう少し、自分の好き嫌いに目を向けてみようかなと思った日だった。


お題『好き嫌い』

6/12/2024, 10:41:00 AM