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6/16/2025, 3:12:13 PM

ふと思い出した場所に片っ端から足を運んでみようと思った。何となく、ただの思いつきだ。意味も恐らく、無い。休日に、昔地元の遊園地に連れて行ってもらったな、と思い出し、財布と鍵を持って車を走らせる。遊園地はすでに閉園していた。寂れた廃虚のような跡地であったが、門前から見えるアトラクションを眺めていると懐かしい記憶が思い出される。
メリーゴーランドで馬に跨り、両親に手を振った。両親は互いに何かを言い合っていて、ついぞ手を振り返してくれることはなかった。
コーヒーカップに乗り込んでハンドルを回した。回せば回すだけ回転が速くなるのが楽しくて思わず笑い声を上げたが、両親は不愉快さを眉間に刻んでこちらを睨んでいた。
ジェットコースターには身長制限があって乗ることができなかった。
代わりに連れて来られたお化け屋敷で、両親とはぐれてしまい、泣いてしまった。通りすがる大人たちも、スタッフも、誰もこちらを見向きもしてくれない。ただただ恐ろしくて、泣いて、出口に向かって走った。
出口には両親の姿はなかった。

あれ、あの後どうやって帰ったんだっけ……?

曖昧な記憶に、心臓が嫌な高鳴り方をする。思い出そうとすればするほど、頭が痛くなる。消えかけの地図で懸命に行き先を探ろうとするかのように、一つ一つ思い出そうと試みる。しかし、目眩がして、それも出来ずに終わった。

6/14/2025, 2:35:45 PM

例え話をしようか。もしも君が鳥で、自由に空を飛べるとしたら君はこの部屋から飛び立って行くかい? え、私は人間だって? そりゃあ見たらわかる。天と地がひっくり返ろうとも君が人間である事実は変わらない。だから例え話なんだ。くだらないと一蹴してくれたって良い。さあ、答えを聞かせてくれないかい?

6/13/2025, 3:01:16 PM

音階を追うと見えてくる景色があった。その景色は雄大で、穏やかで、それでいて寂しさが滲んでいる。ああ、これが君の見ている景色なのだな、と吐息をして目を開けばやっぱり淋しげに笑う彼女が居た。
「どうだった?」
不安げな声色である。私は彼女の不安を少しでも払拭してあげたくて快活に笑った。
「わたしは大好きだよ」
「そっか、それなら良かった」
釣られて笑った彼女のしなやかな指が鍵盤の上で踊る。彼女の音が、彼女のメロディーが、私の唯一の寄る辺だった。

6/10/2025, 2:21:02 PM

目に痛いほどの輝かしさが好きでした。
誰もが目を惹きつけられる美しさが好きでした。
アナタは自分をひどく嫌悪し、卑屈で、後ろ向きでしたが、それを覆い隠してしまうほどの輝きを持って生まれてきてしまいましたね。
可哀想に。
同情して、哀れんで、嫌がる賛辞を与えました。
眉間に寄せた皺も、憎悪が込められた瞳も、悪辣な言葉を吐く唇も、その全てが美しくて。
私は、ただ、その美しさだけが、大好きでした。

5/31/2025, 11:16:05 AM

どうでもよかった。どちらが勝とうが、どちらか負けようが、結局なんやかんや言いがかりをぶつけて同じことを繰り返す。意味などない。理由は単純で、明快だ。終わりにしたくない、というただ一点のみで、僕らはくだらない勝負をお互いに持ち掛けている。だって、そうすることでしか、僕らは呼吸すらまともにできないのだから。

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