一歩踏み出して、体が傾く。
重力に従って、下へ、下へ、下へ。
遠かった背中が迫ってくる。
ああ、やっと追いつけた。
そう思った瞬間に、視界が暗転した。
さよなら、世界。
またきて、来世。
花びらを一枚、また一枚と毟って「好き」と「嫌い」を交互に繰り返す。こんなもので相手の気持ちを図り知れることなど出来やしないのに。それでも私は、繰り返さずには居られないのです。
アスファルトの湿った匂いが鼻腔を満たす。雨が続くこの頃、寂しさを誤魔化すように窓を開け放って煙草を吸う。
昨日、三年もの間交際していた恋人と別れた。理由は何だったか。とにかくいきなり恋人が泣き出したのだ。要領を得ない単語を嗚咽とともに漏らし、こちらを睨めつけてきた恋人は、気狂いのように髪をふり乱していた。その姿が堪らなく愛おしかった。腕に絡んでいた行きずりの相手の手を解き、恋人に歩み寄れば、信じられない! と甲高い声が上がった。
糸が伸びている。私の心臓から伸びたその糸は、私以外には見えていないらしく、そして動いたからといって体に絡まることもなかった。生活に支障はない。かといってこの糸の先に何があるのか気にならない訳でもない。この糸を切ったらどうなってしまうんだろうか。死んでしまうんだろうか。そんな思いもあった。別段死んだって構わないが、それならばいっそ、切ってしまう前にこの糸の先を見てやろうじゃないか。
私は糸の先を辿った。バスに乗り、電車を乗り継いで辿り着いたのは、都会から外れた知らない土地だった。辺りを見渡し、糸が伸びている方向へひたすらに足を進めた。
ふと思い出した場所に片っ端から足を運んでみようと思った。何となく、ただの思いつきだ。意味も恐らく、無い。休日に、昔地元の遊園地に連れて行ってもらったな、と思い出し、財布と鍵を持って車を走らせる。遊園地はすでに閉園していた。寂れた廃虚のような跡地であったが、門前から見えるアトラクションを眺めていると懐かしい記憶が思い出される。
メリーゴーランドで馬に跨り、両親に手を振った。両親は互いに何かを言い合っていて、ついぞ手を振り返してくれることはなかった。
コーヒーカップに乗り込んでハンドルを回した。回せば回すだけ回転が速くなるのが楽しくて思わず笑い声を上げたが、両親は不愉快さを眉間に刻んでこちらを睨んでいた。
ジェットコースターには身長制限があって乗ることができなかった。
代わりに連れて来られたお化け屋敷で、両親とはぐれてしまい、泣いてしまった。通りすがる大人たちも、スタッフも、誰もこちらを見向きもしてくれない。ただただ恐ろしくて、泣いて、出口に向かって走った。
出口には両親の姿はなかった。
あれ、あの後どうやって帰ったんだっけ……?
曖昧な記憶に、心臓が嫌な高鳴り方をする。思い出そうとすればするほど、頭が痛くなる。消えかけの地図で懸命に行き先を探ろうとするかのように、一つ一つ思い出そうと試みる。しかし、目眩がして、それも出来ずに終わった。