NoName

Open App
5/13/2025, 4:25:15 PM

沈んでいく。ふかく、ふかく、息もできないほどに、沈んでいく。苦しくて、口を開けば楽になるかも知れない、と楽観してごぽり。酸素が丸い風船となって遠のいていく。途端に堰を切ったように昨日食べた夕飯のメニューだとか、一年前に財布を落として自棄になるなったことだとか、五年前に初めてできた恋人に捨てられたことだとか、急に思い出されて、終いには小学生のとき読書感想文で表彰された記憶までもが思い出されるものだから、ああ、これはきっと走馬灯なのだな、と悟った。なるほど、人間はこうして死の間際に記憶の海に溺れて一度死ぬのか。一人さみしく納得して目を閉じた。

4/21/2025, 2:27:31 PM

ざあざあ、と波が打ち寄せてくる。足先に触れた冷たい水の感触に身を震わせて、後ろへと一歩だけ退けば柔らかな膨らみが背中に当たった。控えめな笑い声が耳元を擽る。
「かわいいね」
そっと囁かれる戯れに、私は唇を尖らせて不満を訴える。
「少し驚いただけ」
「本当に?」
「本当だってば」
彼女はまた控えめに笑って、私の横に並んだ。耳元に顔を寄せてくる。
「怖くない?」
「一緒なら怖くないよ」
「アタシも」

9/14/2024, 11:51:26 AM

キャンバスに向き合い、ひたすらに絵の具を重ねていく。ひたすらに、脳内にある情景を描き出していく。
ちがう、ちがう、こんなものではない。
僕の頭の中にある景色はもっときれいなのに、どうしてこんなにも汚い色になるのだろう。
何度も、何度も、色を重ねていく。頭の中の景色は言葉では言い表せないほどきれいで、おだやかで、すばらしいものなのに。どうしてキャンバスの上にある景色はこんなにも汚いのだろう。朝も夜も忘れ、食べる間も眠る間も惜しみ、ひたすらに絵の具を重ねていく。
ああ、景色が遠のいて、最後に見たのは、ずっと求めていた景色そのものだった。

9/12/2024, 10:07:35 AM

好きという言葉の軽さを身を持って知った。羽のようなそれは風に吹き飛ばされてどこまでも飛んで行ってしまうだろう。繋ぎ止めておく為に、「好き」と唱える。軽薄な言葉に吐き気を覚えるが、それでも君が欲するというなら何度も唱えてやろう、という気概で居たのだ。
それほど本気だったのだ。
君はそのうち僕に見向きもしなくなった。恋は要らないと無邪気に笑って愛を求めて去っていってしまった。

9/11/2024, 4:26:42 PM

数字にバツを書いた数を数えて、自嘲を漏らす。くだらないプライドがばかりが育っていく。再会を望んだのは自分の方からだったはずだ。なのに、バツの数が増えていくたびに不安が募り、気が重くなっていく。毎日、壁に向かって、カレンダーに書き込むほどに、「会いたい」という思いが薄れていく。

Next