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2/3/2024, 12:57:00 AM

「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
部活の先輩に花束を手渡す。程よく骨張った指先が触れるのを何てことないように流して、私は微笑んだ。
「やー、でも寂しいです。これから先輩がいないでうちらの部活大丈夫なんですかね」
「大丈夫だよ、みんなほんとしっかりしてるから、ちゃんとまとまるよ。あ、来年度の文化祭で顔見せるから、頑張ってね」
「えーずっと先じゃないですか!」とふざけるついでに、そっと先輩の手の中の花束を盗み見た。
花束の中に、勿忘草を分からない程度に入れてもらった。花言葉は、『私を忘れないで』
"後輩"としてでもいい。それでもいいから、私を忘れないでいて。ずっとずっと、憶えていて。
私も、あなたを"素敵な先輩"として憶えているから。

1/23/2024, 11:12:38 AM

「敵はうじゃうじゃいる…気をつけろよ」
ぶっきらぼうな気遣いを自分の中でそっと受け取りながら、クロスボウに装填できるだけの矢を準備する。
敵に奇襲をかけるため、車でその場所へと向かって行く。
敵から見えない所で降ろしてもらい、一つ息をついた。
そして、敵が集まっている場所へと走っていく。
私を見つけた敵の一人が声を出すその瞬間、胸へ一直線に矢を射た。ゆっくりと人が倒れる。
それを見た敵がわらわらと近づいてくるため、私は自ら進んでその人混みの中へ入っていった。
必死だった。やらなければ、捕まってしまう。自分がやられてしまう。
その時、目の前の土が細かく弾けた。音のした方を見ると、敵はライフル銃をかまえていた。どういうことだ、そんなものは持っていないはずなのに。
やられる、そうでなくても怪我をして動けなくなる…!

そこで私は目が覚めた。

1/11/2024, 10:31:46 AM

冷たい空気が刺すように鋭く感じる。
おかしいな、マフラーも巻いて、モコモコのジャンパーだって着てるのに。
途中のコンビニで買ったカイロで震える指先を必死で温めても、震えが止まらなかった。
「…どうしよう、お家、帰りたくないや」
唯一心を許せる飼い犬の散歩に行った帰り道、足が動かなくなってしまった。

今思い返せば、あの時の不安だった自分の元へ駆けていきたいと感じる。駆け寄って、思いきり抱きしめて、「あなたが心の底から行きたいと思う場所に行こう」と言ってやりたい。
そうすれば、冬の寒さが身にしみるのが、今もこんな風に辛いはずはないのに。

1/8/2024, 3:42:59 AM

ぎゅむぎゅむと積もった雪を濡れた革靴で踏みつけていく。
ぴんと張り詰めた冬の空気が頬をひやりと撫でた。
『お互い受験も終わったしそろそろ恋愛の方の春も準備しよう。まじでほんとお前には幸せになってほしい。最高にいいヤツだからさ』
先程男友達に、にやにやしながらそう言われた。
覚悟はしていた。例えるなら、自分のこの気持ちは、日光が当たれば溶けてしまう雪のようなものなのだと何度も言い聞かせてきた。だって私には、頑張りたいことがあるから。それに、ずっとそうだったから。いいなと思っても、報われたことなんて一度もなかったから。
雪のように溶けてしまえば、あったのかなかったのか分からないものだから。
だからいつもやるように、気持ちにそっと水をかけて溶かしていこうとした。
靴下に冷たい水分が浸透していく。
そこからしばらく動けなかった。

12/11/2023, 11:03:08 AM

「かわいい」
そう言われて、胸がきゅうとなる。
あなたが私を思ってくれるのが嬉しい。
でも私は、今までたくさん期待をして、たくさん虚しくなってきたの。
だからあなたの言葉にも、なんてことないフリをして、鈍感で純粋な女の子を演じるの。
たとえ胸の奥が泣いていても、期待をするのは諦めたの。

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