「…このことから、『枕草子』は関白であった藤原道隆の時代を称えている作品であると読み取れます。『源氏物語』の作風とは対であると考えられますね」
1000年以上前、二人の女性が己の才一つで名を馳せた。活躍した時期も近いので、よく並べられたり、比較されたりすることも多い。
でも二人が書き物をしようと思った理由はそれぞれで、その想いの結晶がこうして1000年先まで届いているのだ。
想いは水のように形を変えて色々な人の身体に染み渡り、遠い未来へと繋がれていく。
届くと、いいな。届いて、ほしいな。
この感動が、1000年先の未来にも。
紅葉の落ち葉で赤く染まった道を、買ったばかりのワンピースと白いブーツで進んで行く。
彼と別れてから半年が経った。共通の知り合いによると彼はけっこうダメージをくらっていたらしく、今も恋愛には乗り気ではないようだ。まあ私から別れを提案したからそりゃそうか。
彼がくれた思い出の品々は、紙袋に詰め込んでガムテープで固く封印した後、油性ペンで特級呪物と書いて物置部屋の奥深くに放り込んだ。
最初は実用的なものは残しておこうかとも思っていたけど、今は全て物置部屋に永眠させた。
だってもう必要ないもの。彼が「似合ってる」と言ってくれたものがなくても、じゅうぶん可愛くなれるもの。
自分が選んだもので可愛くなって、自分で自分を笑顔にしたい。
今日のファッションは完璧だ。特にブーツの白が赤い紅葉に映えて、最高におしゃれだ。
高級感溢れる赤い絨毯の道を、得意気に進んで行った。
私の背中には羽根がある。
いつかこの羽根で大きな空を飛びたいなと思っているから、いつもいつも練習している。
昔は羽根に気づかなかった。ずっと生えていないと思ってた。でも分かったんだ。私が私の羽根の力を信じないと、羽根は成長しないんだということを。
まだまだ小さな羽根だけど、羽ばたけば大きく揺れてすぐ落下してしまうけど。
この揺れる羽根で、いつか空を飛びたいんだ。
『お互いがんばろー』という私からの吹き出しで終わったLINEを見返す。
一応彼とは付き合っている、と思う。
でも彼の反応を毎回うまく読み取れなくて、だからどうしても不安になる。
「ご飯行こう」なんて私からも言えないから、結局休日もバイトにあててしまい、バイトの人にも「彼氏大丈夫?」なんて心配される始末。
もういいや。あと少しでこの恋も終わるだろうし、バイトをたくさんして内面磨いて、同時に女磨きも頑張って。
それで誰か別の人と出会えればそれでいい。
ああでも、また『誰か』の荒波を越えていかなくちゃいけないのか。
はあ。
『あなたにもらったもの、たくさんあります。数え上げたらきりがありません。
本当に、出会えてよかった。この選択をしたこと、あなたはすごく怒るでしょう。でも対処できるのは私だけだった。今ここで私がやらなければ、強い私でいる意味が何も残りません。
だから私は、何も後悔していないのです。
ああそうだ。ずっと言えてなかったけれど、私はあなたのことが⸺』
残された手紙の文章が、不自然な空白をつくる。
聞きたかった言葉、こうであったら嬉しいなと思う単語は予測できたが、断言できず諦めた。
ふと、手放した手紙の『後悔』という単語に、しみができているのが見えた。最後の空白部分には、二つのしみが付いていた。よく見れば直前の文章も震えている。
また、手紙を手放した。
ずるい女だ。残された自分に空白を突きつけるくせに、その空白に思いをたっぷり染み込ませるなんて。
涙があふれて、止まらなかった。