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11/26/2025, 12:57:34 AM

紅葉の落ち葉で赤く染まった道を、買ったばかりのワンピースと白いブーツで進んで行く。
彼と別れてから半年が経った。共通の知り合いによると彼はけっこうダメージをくらっていたらしく、今も恋愛には乗り気ではないようだ。まあ私から別れを提案したからそりゃそうか。
彼がくれた思い出の品々は、紙袋に詰め込んでガムテープで固く封印した後、油性ペンで特級呪物と書いて物置部屋の奥深くに放り込んだ。
最初は実用的なものは残しておこうかとも思っていたけど、今は全て物置部屋に永眠させた。
だってもう必要ないもの。彼が「似合ってる」と言ってくれたものがなくても、じゅうぶん可愛くなれるもの。
自分が選んだもので可愛くなって、自分で自分を笑顔にしたい。
今日のファッションは完璧だ。特にブーツの白が赤い紅葉に映えて、最高におしゃれだ。
高級感溢れる赤い絨毯の道を、得意気に進んで行った。

10/25/2025, 12:11:37 PM

私の背中には羽根がある。
いつかこの羽根で大きな空を飛びたいなと思っているから、いつもいつも練習している。
昔は羽根に気づかなかった。ずっと生えていないと思ってた。でも分かったんだ。私が私の羽根の力を信じないと、羽根は成長しないんだということを。
まだまだ小さな羽根だけど、羽ばたけば大きく揺れてすぐ落下してしまうけど。
この揺れる羽根で、いつか空を飛びたいんだ。

10/4/2025, 8:39:23 AM

『お互いがんばろー』という私からの吹き出しで終わったLINEを見返す。
一応彼とは付き合っている、と思う。
でも彼の反応を毎回うまく読み取れなくて、だからどうしても不安になる。
「ご飯行こう」なんて私からも言えないから、結局休日もバイトにあててしまい、バイトの人にも「彼氏大丈夫?」なんて心配される始末。
もういいや。あと少しでこの恋も終わるだろうし、バイトをたくさんして内面磨いて、同時に女磨きも頑張って。
それで誰か別の人と出会えればそれでいい。
ああでも、また『誰か』の荒波を越えていかなくちゃいけないのか。
はあ。

9/14/2025, 8:38:44 AM

『あなたにもらったもの、たくさんあります。数え上げたらきりがありません。
本当に、出会えてよかった。この選択をしたこと、あなたはすごく怒るでしょう。でも対処できるのは私だけだった。今ここで私がやらなければ、強い私でいる意味が何も残りません。
だから私は、何も後悔していないのです。
ああそうだ。ずっと言えてなかったけれど、私はあなたのことが⸺』
残された手紙の文章が、不自然な空白をつくる。
聞きたかった言葉、こうであったら嬉しいなと思う単語は予測できたが、断言できず諦めた。
ふと、手放した手紙の『後悔』という単語に、しみができているのが見えた。最後の空白部分には、二つのしみが付いていた。よく見れば直前の文章も震えている。
また、手紙を手放した。
ずるい女だ。残された自分に空白を突きつけるくせに、その空白に思いをたっぷり染み込ませるなんて。
涙があふれて、止まらなかった。

6/17/2025, 1:02:35 PM

「このように手を合わせて、ただただ真摯に祈るのです。どうか安らかに。どうか平穏に」
紫色の頭巾を被ったニョインサマは、柔らかな手つきで手を合わせる。それを見た名無しの少女は、口をへの字以上にひん曲がらせた。
「なんだいそれ。そんなんで腹はふくれねえし、そもそもあんたの家族とか仲間は全員壇ノ浦の海の下だろ。あたしのおっとうとおっかあも飢え死んだ。届くわけがねえ」
すぐ側に控えていたお付きの尼が少女に「女院様です!!!」と噛み付いたのを制して、建礼門院徳子は深く微笑んだ。
「そうですね。私の祈りや願いを聞き受け取る者はもういない。それでも皆を思はずにはいられず、手を合わせてしまう私は、未だ現世に未練を残しておるのやもしれません。出家したというのにね」
ふと、茶目っ気たっぷりだった彼女の表情が儚く揺れる。
「けれどもそれは私のやるべきことであり、どうしてもやっておきたいことなのです」

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