《上手に喋るにはどうしたら良いですか》
吃音だという、リスナーの少女からそういうメールが届いた。
「吃音、吃音、ねえ…」
「なんか、落ち着いてリラックスすればいいんじゃないですか?」
ラジオブースにいる他のメンバーは、上手く答えができずに困っている。ちらりと表情を見れば、皆一様に眉尻を下げていた。
目の前のマイクに拾われないよう、そっと静かにため息をついて、口を開いた。
「喋りに上手いも下手もないですよ。そりゃ人を楽しませる話術とか、そういうのが必要な場合はあるかもしれない。仕事上とかね。でもまず何よりも大切なのは、自分の思っていること、考えていることを伝えようとすることじゃあないですかね。それがなきゃ、どんなにギャグセンスとかが高くても意味がない。上手くなくてもいい。下手でいい。ただ君の真っ直ぐな言葉がきちんと伝わったら、どんな内容でも相手は笑顔になると思いますよ。現に私達は今上手く答えを喋れてませんでしたしね」
「おいー!俺頑張ったんだけどー!」
先程リラックスすれば…?と言ったメンバーがぶすくれて、他のメンバーも「調子に乗るな」と笑い出す。困った空気を上手く変えたので、それにのっていこうと考えたのだろう。呑気なものだ。
リラックスして上手に話せるなら、私だってあの時苦しんだりしてなかった。
君は、太陽みたいに素直な子だったね。思ったこと、感じたことをそのまま言える。私は何も考えてないなんてひどいこと思ってたけど、ホントの本音は君の太陽みたいな素直さが羨ましかったんだ。
好きなものを、はっきり好きと言える。物事をありのままで受け入れて、面白いと笑える。
私にとってはすごく勇気のいるそれを簡単にできる君は、私の太陽でした。
不思議。
あなたと一緒にいたら、つまらないことでも面白く感じてしまうの。いつも見ている世界がきらきらして、何だかこっちまでわくわくして、…そして、私も優しくなれるの。
でもあなたがいなくなったら、これは全部まやかしだったのねって、気づいたの。
つまらなく、なっちゃったの。
たとえ、身も心も任せてしまう方が幸せだったとしても、私は簡単に心だけは渡したくない。
いつどんな時でも、誇り高く生きていきたいもの。
それが難しいのなら、一生一人でいい。
気分の上がる囃子の音。
あちらこちらで見える笑顔。
華やかに咲く浴衣の花。
少し特別のように感じる夜。けれども帳が降りて空が濃く染まると、明るい喧騒が嘘のようにさあっとなくなる。そして残されるのは、寂しいと思う自分と、秋にむけて大人になっていく自分。
消えてしまう。お祭りが、夏の夢が、泡のように、消えてしまう。