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5/29/2023, 11:37:46 AM

私ね、今日もいつメンのみんなが笑ってくれて、良かったって思うんだ。辛いこと、苦しいこと、たくさんあるけど、みんなちゃんと前を向いて自分の道を進んでる。それがほんとに嬉しいんだ。
大学受験の時、私だけ浪人しちゃったでしょ?みんな気を遣って何も言わないでくれてたけど、時々気分が乗ってLINEとかで引っ越しの話とか、部活の話とかしてて。その時、「早抜けが」なんて心の中で思ってたんだ(笑)。だから私は、いつもよりちょっと既読つけるのを遅くしたり、返信しなかったりしてた。
ごめん。素直にみんなを祝えなくてごめん。みんなのこと憎んでごめん。いつもいつもバカみたいに騒いでうるさくしてごめん。誰よりも早く死んじゃって、ごめん。
私バカだからさ、みんなから色々な素敵なものを貰ってるのに返せるものが見つからなくて、だからみんなが笑顔になれればいいなって、ヘラヘラすることしかできなかった。それしか、自分のできること思いつかなかったんだ。なのに、ごめん。何も返せてないままぽっくり逝っちゃった。
あのね、私ずっとみんなのそばにいるから。幽霊になるから。みんなが泣きたい時は、すり抜けちゃうかもしれないけど、手を握るから。
それくらいしかできないけど、笑って生きてほしいんだ。

5/28/2023, 11:29:52 AM

「あっちー。どうかしてんだろこの暑さ」
「地球が悲鳴上げてんのよ、二酸化炭素はもういいですって」
「んなもんもうどうしようもねえだろう。俺らは生きてる限り二酸化炭素出し続けるんだから」
そう言って山田は、地球温暖化はどうの、世界の偉い人達はどうのと小難しい話をつらつらと話し出した。
花村はそれに適当に相槌をうって、半分くらいを右耳から左耳へと流す。
誰かが走って去ったのか、ばたばたと廊下が騒がしくなった。山田が顔を上げる。
「何だ?」
「…うちのクラスの一軍女子達よ。この間あんたと付き合ってんのかって聞かれたわ」
「何だそれ」
「まああんたも夏期補講の放課後はしょっちゅう私とこうやってくっちゃべってるじゃない。はたから見たらそういう風に見えるんじゃないの?」
「うええ。何だそれ。俺ら別にお互い話したいこと話してるだけじゃん。性別越えた普通の友達だけど」
山田はべろっと舌を出した。花村ははため息をついて言った。
「何でだか年頃の女っていうのは、そういう風に異性のコンビを恋愛形の括りで見たがるのよ。まあ私から言わせれば下世話な勘繰りってやつだけど」
「理解したくないわ」
「私もしたくないわ」
二人して爆笑する。良い意味でお互いの違いを認め合って、でも気にし過ぎない関係が心地良かった。
花村がふと口を開く。
「みんなさあ、そんな大層なもんじゃないのに、ちょっと変わってるってだけですぐ取り繕ったりするじゃない?それこそほんと小さくて目立たない傷跡でも長袖着て隠すみたいなさ。そうじゃなくて、ほんとに人間として大切な部分は長袖着て温めといて、そうじゃない、素の方が楽って部分は半袖着て楽にしてればいいのになって思う。…私今良いこと言った?」
「プリント一枚」
「嬉しくねえわ」
澄み切った夏の午後の空に、二人の笑い声が染み込んでいった。

5/27/2023, 12:31:02 PM

もし本当に、あの世の先に天国と地獄があるとしたら。私はきっと地獄に落ちる。
家族を苦しめ、周りの人を苦しめ、そして、愛してくれたあなたも苦しめた。そうだ。私は悪女だ。
でもどうしてかしら。先に死ぬべきだったのはあなたじゃなくて、私だったと思ってしまうの。先に逝ってあなたを待っていたかった。そして天国で幸せになるあなたを、地獄から見守りたかった、のに。
ねえ、きっとあなたは、地獄に私が来たら、私を天国に引き上げようとするでしょう?
だめよ。私は死んだあなたのことなんて嫌いなの。ずっとずっと天国にいなさい。私はずっとずっと地獄にいるから。あなたが地獄に下りて来ないように、見張ってるから。そのために今日も、悪行を重ねなくちゃね。

5/26/2023, 11:55:51 AM

開けた簀子で一人酒を晩酌していた阿倍仲麻呂は、外の景色に目を奪われた。すぐそばで聞こえる喧騒が、一瞬遠く聞こえた。
月と山。ただそれだけなのに、どうしようもなく心が震えた。ここは、どこだったか。私はもう、日本に帰ってきたのか。
「朝衡!」
はっと現実に呼び戻される。振り返ると、王維が赤ら顔でにこにこと笑って隣に座るよう手招きしていた。
立ち上がって隣に座ると、おちょこに酒を注がれる。
「君が生きていてくれて本当に良かった!」
ふ、と仲麻呂は口角を上げる。友の存在は素直に嬉しい。
「王維は大げさなこった。お前が死んだって聞いた後に俺と会った途端ぼろぼろ泣きやがって。餓鬼くさいったらねえ」
「そういうあなたも追悼の詩をかいていたじゃあないですか」
「ふんっ」
「相変わらず李白さんは偏屈ジジイですねえ」
仲麻呂はからからと笑う。
「あれはどちらの詩も傑作だった」
本当に、心の篭った素敵な詩だった。感動した。
きっと自分は、この唐の国で寿命を迎えるのだろう。
寂しいが、そうそう体験できないことがたくさんできた。だから、良い。月と山を見て浮かんだあの想いは、自分と故郷だけが知っていて良い秘密としよう。
いつか、いつか、日本へ。そっと月に願った。

天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも

5/25/2023, 11:23:44 AM

ねえ、あたしびっくりしちゃった。
雨の中で泣くなんて、ドラマの中の話だと思ってたんだけど、ホントにそうなることってあるのね。
遠くに見えるあなたは、知らない女の傘に入っていって、楽しそう。女も満更じゃなさそうね。
知ってるわ。あなたは、誰にでも優しい男なんだって。そういうとこ、ホント嫌い。あなたに話しかけられたら、嬉しくなっちゃうけど、自然と可愛い笑顔になっちゃうけど、嫌いなのよ。
それとあなたの好きな雨も、荷物はかさばるし外は寒いから、あたしは大嫌いなのよ。
…ねえ、あたし、雨は大嫌いなのよ。いつまで、降るの?

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