「星になる」
死んだら星になるって言うよね。
じゃあ流れ星は誰かが生き返るってことなの?
幼子にそう聞かれて私は言葉が詰まってしまった。
微かに小さく瞬いている星を見つめて答えを探す。
そうかもしれないね、と簡単に答えられないのは彼が母親を亡くしているからだ。
彼の目にはたくさんの星が輝いて溢れそうなのに吸い込まれそうな瞳をしている。
まるで国を超えて彷徨う旅人と同じような孤独の影を見て、私は思わず彼を抱きしめた。
夜空は孤独を深める。
満点の星空は美しいが天井がなく自分の足がグラグラと揺れてしまう。
そしてそのまま地面と繋がりが切れて空に吸い込まれてしまうのだろう。
私はまだ彼に星になって欲しくなかった。
すると、まるで早く彼をこちらに渡せとでも言うように星が降り始めた。
向こうへ行け。他の誰かの元へ行け。まだこの子を迎えに来るな。
星は尾を引いて私たちの上を通り過ぎた。
「遠い鐘の音」
誰かの福が降りた商店街
沸き立つ胸は来年への祈りか
「きらめく街並み」
星々が輝いているのか、ただの光なのか。
それとも涙なのか。
涙だとして悲しいのだろうか、ただ眩しいのだろうか、美しさに心が打たれたのだろうか、それとも。
「泣いてるの?」
戸惑いと照れが入り混じったような声が頬を撫でる。
その声できらめいているのが自分の涙なのだと知る。
「うん。感動して」
感動というやたら便利な言葉で誤魔化した。
けれど涙が出ている理由なんて自分でもわからない。
こんな光景いくらでも見てきた。
酒臭い息とか耳の裏の酸っぱい匂いとセットで。その時は金が輝いているとしか見えなかった。
こんな感傷的になるなんてありえなかった。
高校生みたいなうぶな反応をしてしまうなんて少し恥ずかしい。
きっと隣からほんのり香ってくるムスクのせいだ。
そういうことにしよう。
「冬の足音」
会社にいると風や天気、気温が分からないという休日家に引き篭もった時と同じ体験ができる。特に窓が少ない工場なんて、たとえ雷が鳴っていたとしても停電にならない限り分からない。
外にいるはずなのに外のことが分からない。
心身ともにくたびれて会社のドアをくぐって初めて地面が濡れているのに気付き、雨が降ったことを知る。
天気や気温を感じることができないだけで人間の本能的にまずいのではないかという一抹の不安を覚える。
季節を知るのはやけにテンションの高い液晶の中と帰り道に感じる太陽の残り香だけだ。桜の開花宣言も海開きも紅葉もどこか別の世界のようだ。
しかし冬だけは別なのだ。
冬は太陽が沈んでからゆっくりと歩みを進める。
つまり帰り道俺が夜に向かって歩いて行くのと同じ歩幅で冬も寄り添ってくれるのだ。
「冬になったんだな」
頬を切るような風を感じて少し嬉しくなる。
温かいスープを作ろう。こたつを出そう。みかんはそろそろ売られているだろうか。
他人事ではない季節が私は一番好きだ。
「贈り物の中身」
気まぐれに天使が自分の羽を下界に落とす。
それを見つけた人間は願いが叶ったり、いい気分になったり、ちょっとした奇跡につながる。
そんな羽を1人コツコツと集めて隠し持っている者がいた。
彼女は美しい鳥で、美しい天使に憧れていた。天界こそが自分の居場所だと信じて疑わなかった
「こんなにも羽が集まるということはやはり天使になるのにふさわしいということね」
不遜な彼女はこれまでに落ちた奇跡を眺めて天界に行くのを待った。
そしていざ天寿を全うし神の審判の場で申した。
「これまでこんなにも天使の羽を集めてまいりました。天界で一番美しい天使になりたいのです!」
神は少し考えてこう告げた。
「お前は羽を集めるだけで天界に来ようとしなかった。夢を叶えるのは少しの奇跡でも掴み取ろうとしている者だけだ」
子供の姿をした天使たちが悪戯っ子のようにクスクスと笑った。