香草

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「冬の足音」

会社にいると風や天気、気温が分からないという休日家に引き篭もった時と同じ体験ができる。特に窓が少ない工場なんて、たとえ雷が鳴っていたとしても停電にならない限り分からない。
外にいるはずなのに外のことが分からない。
心身ともにくたびれて会社のドアをくぐって初めて地面が濡れているのに気付き、雨が降ったことを知る。
天気や気温を感じることができないだけで人間の本能的にまずいのではないかという一抹の不安を覚える。
季節を知るのはやけにテンションの高い液晶の中と帰り道に感じる太陽の残り香だけだ。桜の開花宣言も海開きも紅葉もどこか別の世界のようだ。
しかし冬だけは別なのだ。
冬は太陽が沈んでからゆっくりと歩みを進める。
つまり帰り道俺が夜に向かって歩いて行くのと同じ歩幅で冬も寄り添ってくれるのだ。
「冬になったんだな」
頬を切るような風を感じて少し嬉しくなる。
温かいスープを作ろう。こたつを出そう。みかんはそろそろ売られているだろうか。
他人事ではない季節が私は一番好きだ。

12/4/2025, 11:20:20 AM