今、いい感じの女の子がいる。
いわゆる、友達以上恋人未満ってやつ。
でも、その子には、振られたくない。
振られるぐらいならこのままで構わない。
なんて臆病な俺。
ふと、空を見上げる。
雨が降るのか、降らないのかわからないあいまいな空。
天気のアプリを見ても、見るたびに予想が変わっている。
降るなら降るで構わない。
だから、はっきりしてほしい。
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天気のように思えたなら
俺たちの関係も変わるのかな。
もしこのまま晴れたなら
少しだけ勇気を出してみようか。
家に帰ると、靴箱の上にあじさいの花が活けてあった。
今まで妻が花を活けたことは一度もなかった。むしろ、花を活けるのは好きではないと言っていたはずだ。
「どうしたの、あじさい。花を活けるなんて珍しいね」
「あれね、隣の神林さんから貰ったのよ」
妻の口から『神林』という名前が出てきてドキッとする。
俺が今まさに不倫をしている相手の名字が神林だったからだ。
変な冷や汗が出てくるが、それに気づかないふりをして、いつも通りの口調で言葉を返す。
「かっ…神林さん。珍しい名前だね」
ちょっと噛んでしまったが、普通に返事はできたはずだ。
「あれ、神林さん知らないの?」
「初めて聞いたよ」
「ふーん、そう。」
謝罪をするべきではないのかと思いながらも、もし妻が知らなければ、墓穴を掘るだけだ。
俺は、何も言うことが出来なかった。
しばし、沈黙が続いた。
妻はじーっと観察するようにしばらく見ていたが、沈黙を破って口を開いた。
「どうしたの、急に黙って。」
「いや、別に何もないけど」
「ふーんそう……。ところで、あじさいの花言葉って知ってる?ちょっと調べたけどよく分からなくて」
「すぐに出てくると思うけど」
俺がスマホを取り出すためにポケットを探ろうとすると
「あとでいいわよ。調べといて。私出かけてくるから、また今度教えてくれる?」
そういって、バタンとドアを閉めて、妻は出かけて行った。
しばらくして妻の足音が聞こえなくなると、安堵のため息が漏れた。
妻は怒っていなかった。
何とか、やり過ごせたと思いたいのだけど。
俺は冷や汗をぬぐって、リビングに移動してソファに腰掛けると、テーブルに何か紙が置かれていることに気づく。
裏返してみると、それは妻の名前の書かれた離婚届だった。
俺は急いでスマホであじさいの花言葉を調べる。すぐに花言葉は見つかった。
そして俺は、妻が二度と戻ってこないことを悟った。
「失恋」
「一番最初に報告したくて。私、結婚が決まったの!」
「えっ?」
電話越しのその一言に、体が固まる。
なんでだろう、
応援していたはずなのに・・・。
冷たい何かが頬を伝ってこぼれ落ちていく。
彼女は、私の一番の理解者だ、と云ってくれていた。
それだけで十分だと思っていたはずなのに。
同性じゃなかったら、
もし、私が男だったら、
私を選んでくれたの?
親友として対応しないといけないのに、
頭の中では
そんなバカげた考えが
ぐるぐる回って、
何も考えることができなかった。
そんな私を見かねて、彼女が声をかけてくる。
「泣いてる?」
「ぅ…、うん、……け、結婚がっ……決まったのが嬉しくて……っ!」
私は何とか言葉を絞り出して、精一杯の嘘を吐いたが、それ以上、言葉を交わすのは耐えられそうになかった。
「ご、ごめん……っ、涙がっ止まりそうにない……っ、ま、また、電話するっ……」
それだけを何とか伝えて、慌てて電話を切った。
電話を切ったとたん、私の涙腺は限界を迎えた。
一度堰を切ってしまった涙は、当分止まりそうもなかった。
今日はもう、どこまでも泣こう。
この涙が枯れたとき
彼女のことを 心から応援できますように。
失恋って梅雨みたいだなって思う
泣いても泣いても
とめどなく涙が出てきて
ずっと雨の中にいるみたい
でも
梅雨はいつか明けて夏が来る
今は毎日
心の中は土砂降りだけど
いつの日か
夏の日のように
心が晴れて
笑顔になれる日々が
戻ってきますように
純粋無垢な性格になりたかったな、と思う。
かわいいねって言われたら
笑顔で
ありがとうって言えて。
間違ってるよって言われたら
すぐに
ごめんなさいって言えて。
好きなものを
素直に
愛してるって言えて。
なーんて
こうやって
深読みしている時点で
純粋無垢な性格にはなれそうもないね。
私は私らしく生きるしかないか。