光輝け、暗闇で 後日書きます
夜、温めのお湯を張った湯船に、頭ごと沈む。身体を丸めてお湯の柔らかさに身を委ねる。こうしていると、疲れたこととか嫌だったこととかがしゅーって萎んで、安心感で満たされる。この世に生まれる前、お母さんの身体の中でへその緒から酸素を貰って呼吸していた頃は、こんな感じだったのかな、なんて思う。その頃の記憶はないから、ただの想像でしかないのだけど。
当然ながら、今の私はへその緒でお母さんと繋がってないから、ずっと沈んでると息が苦しくなってくる。そうなったら、勢いよくお湯から顔を出す。息を大きく吸って、酸素を肺に取り込むと、湯船に浸かる前のネガティブな気持ちは消えていた。生まれ変わったような、新生したような気持ちだ。
今日の私は今日の私。明日の私は明日の私。
新生した私はまた、明日から新しい気持ちで私を生きていく。
記憶の海 後日書きます
ただ君だけのために、俺は何でも出来た。
痛いことも怖いこともきついこともつらいことも悲しいことも、何だって。
そうしてやっと、君の願いを叶えてあげられたのに、君はどうしてそんな顔をする?
まるで、俺を怖がるような。
まるで、俺を軽蔑しているような。
何でだよ。何でだよ。何でだよ。何でだよ。
笑えよ。泣いて喜べよ。
俺は全部君のためにやったんだぞ?君は願いが叶ったんだぞ?
なあ、そんな顔するなんて、そんなの、おかしいだろうが。
ほら、笑えよ。笑ってくれよ。
何を言っても、君の顔は晴れない。俺の望んでいた表情にはあまりに遠い。
そして、君は小さく、ごめんなさいと一言残して、俺の前から姿を消してしまった。
あああああああああああああああ。
俺の喉から獣のような声が湧き上がり、視界は揺らぎ、涙がとめどなく溢れる。
許さない。許せない。
俺には君だけ。ただ君だけだったのに。
私は選ばれた。次の時代に旅立つ、ノアの方舟計画の対象者に。
戦争で世界は荒れ、環境は破壊され、地球はもう長くはない。
遠い惑星を次の安住の地とする夢を見た人類は、宇宙船“ノア”で星を渡る『ノアの方舟計画』を立案した。
私はあらゆる試験に勝ち残り、その限られた対象者の1人として、“ノア”に乗る。
真面目に勉強し、真面目に生き、決して悪いことはしなかった。他人からはつまらない人生だと言われたこともある。しかし、私はそのつまらない人生のおかげで、この計画の対象者になることができたのだ。人生とは面白いものだと思う。
今、私の目の前には高さ2メートルほどの半透明の青色のカプセルが見える。対象者はこのカプセルの中に入り、コールドスリープの状態で自動運転の“ノア”に乗り、目が覚めたら目的の新天地へ着いている、という計画だ。
私は、事前に飲む薬をゴクリと飲み込み、身体にピタリと張り付く特別なスーツを着て、カプセルへ入り込んだ。
大仰な音を立ててカプセルが閉まる。
この“ノア”は未来への船。
次に目が覚めたとき、私は希望の未来へ辿り着いているはずだ。
新天地と、そこで始まる新たな日々への期待を胸に、私は静かに目を閉じた。