ミキミヤ

Open App
1/22/2025, 8:20:28 AM

羅針盤なんてなくたって、ちゃんと前を向いて正しい道をここまで進んできたと思ってた。何にも頼らず、自分の力で歩けていると、そう思ってた。
でも、よくよく振り返ってみれば、誰かの言葉や行動が、私の背中を押したことが何度もあって。誰かのおかげで選び取れた道も確かにあって。私は無意識に、他の誰かを羅針盤にして、正しいと信じる道を進んで来られたたんだなあと思う。ここまでの私の道のりは、独りじゃなかったんだなあ。そう思ったらまた、前へ向かう勇気が湧いてきた。

1/21/2025, 6:30:34 AM

俺は勇者だ。一人きりで旅する勇者だ。勇者と言えば旅の仲間がいるイメージがあるかもしれないが、俺は仲間が居なくても十分強いし、仲間は作らない主義なのだ。

昨日、俺は、花の都と呼ばれる街で悪行を働いていた魔物を成敗した。今日、俺はこの街を出て、魔物に虐げられ、より過酷な環境にある人達を助けに行く。これからずっと、いつか魔王城にたどり着いて魔王を討伐するその日まで、光ある明日を信じ、それに向かって歩いていく。それが、俺の生き方だ。

「勇者様!その傷でどこに行かれるつもりですか!」

後ろから声がする。傷――昨日の魔物との戦闘で負った傷のことか。確かにまだ治りきってはいないが、既に血は止まり、塞がりかかっている。俺は回復力が他人より高いのだ。体力は回復しきってはいないが、これくらい、戦闘の支障にはならない。

「待ってください、勇者様!そんな体で旅を続けるなんて、正気じゃないですよ……!」

正気じゃない、か。単身で魔王を倒そうなんて正気じゃないって、旅に出たとき村の皆に言われたな。それでも俺は確信してたんだ。魔王を倒すことが俺の運命なのだと。

後ろから俺を追っていた声の主が、ついに俺に追いついて、腰辺りに飛びついた。俺は、強制的に歩みを止めさせられる。

「光ある明日に向かって歩く、素晴らしいお志です。でも、たまには今日に立ち止まって、休んだって誰も貴方を責めません。どうか、貴方を心配する私のために、今日ここで立ち止まり、休んでいってくださいまし」

そう言う彼女は泣いていた。泣きながら、強い眼差しで、俺を見ていた。俺を絶対に先に進ませないぞ、という気概を感じる。もちろん俺は、どれほど力が籠もっていようと、この子の細腕など簡単に振りほどける。それなのに、その濡れた力強い瞳を見ていたら、その気が起きなくなってしまった。とたん、体がずんと重く感じる。俺は、とてつもなく疲れている。それを今、こうして立ち止まって初めて、俺は自覚した。

「わかって、くださいましたか。ではこちらへ。お部屋の用意はしてありますから」

彼女は安堵したように涙を拭って、俺の片手をとって街の中へと導いていく。俺は重い体を引きずってそれに続いた。


いい湯をもらった。いい部屋でいい布団でたくさん休ませてもらった。食事はみんなおいしかった。どれも、ここしばらくの旅では得られなかった安らぎだった。
明日に向かって歩く、その信念は変わらない。でも、突き進み続けるばかりでなく、ごくたまに立ち止まるくらいはいいのかもしれないと、俺は少し考えを変えた。

1/20/2025, 8:05:57 AM

ペンを持ち、便箋に向き合う。便箋の色は、君のイメージカラーの黄色。便箋には、君が好きだと言っていたヒマワリの花が描かれている。
先日のライブのことを考えて、あの曲のサビ前の表情良かったな、とか、バラード曲の歌声が伸びやかで最高だったな、とか、あの曲のダンスパート今回もキレキレでかっこよかったな、とか、思い出しながら、ペンを走らせる。
俺がいつも見ているのは、ステージ上でスポットライトに照らされる君。始めて君と出会った時も、君はステージの上にいた。君は一際輝いて、美しい歌姫だった。
ライブの席から君を見つめるだけでは、SNSのコメントで感想を伝えるだけでは、君への想いはおさまらない。だから俺は、こうして手紙を書いている。

君にとって、俺は大勢のファンの1人に過ぎないだろう。別にそれでいい。ただ、世にたくさんいるアイドルの中で、君が俺にとってたった1人の特別な存在だと言うことを伝えたいから、書いている。

俺は、自らの言葉で、自らの字で、丁寧に、愛情を込めて、言葉を綴る。
ただひとりの君へ。

1/19/2025, 4:55:16 AM

小さな娘と手と手を繋ぐ。柔らかくて小さくて可愛い手。この子の小さな身体には、どれだけの可能性が秘められているだろう。この子は、これから、何にだってなれる可能性がある。可能性は無限大で、まるで宇宙のように広がっている。私の手のひらは今、宇宙と繋がっている。
この宇宙の広がりを妨げることなく、この子が将来この子なりの星を掴む、その時の為に、私は生きたい。
手のひらの宇宙を優しく握りながら、私はそんなことを思うのだ。

1/18/2025, 8:51:03 AM

姉と姪と私で、川沿いの桜の並木道を歩いて花見をしていたときのこと。
姪のヒナタは風に舞う花びらを自分の手で捕まえようと、繋いだ姉の手を振り切る勢いで、あっちにぴょんぴょん、こっちにぴょんぴょんしていた。
私は2人の前を歩きながら、ゆっくりとした足取りで桜並木を楽しむ。木々を彩る薄紅も、枝から離れた花弁も、どちらも何か心の深いところに訴えかけてくるような風情があった。

「あ!エミねえちゃん、いいなー!」

急に、後ろを歩いていたヒナタが声をあげた。なんだろうと振り返ると、ヒナタは私の背中辺りを指差しているようだった。

「エミねえちゃん、かみに花びらついてる!かわいい!」

どうやら、私の背中辺りの髪の毛に、いつの間にか桜の花びらがくっついていたらしい。

「ね、ね、とっていい?ヒナタそれほしい!」

手を一生懸命私の背中に伸ばしながら言ってくる姪が可愛くてしかたない。私は緩んだ顔で「いいよー」と言いながら、その場に立ち止まり、しゃがんでヒナタに背中を向けようとした。
その時だった。
ぴゅーと風が吹いて、また桜の花びらが舞った。その中の1枚がひらりひらりとやってきて、風のいたずらのように、ヒナタの小さな頭の上に乗った。

「ふふっ」

私と姉が同時に笑った。1人だけ訳の分かっていないヒナタは、きょとんとしている。

「今ね、ヒナタの頭の上に花びらが乗ってるのよ」

姉が言うと、ヒナタは慌てて自分の頭の上を繋がれていない方の手で探ろうとした。

「ヒナタ、待って」

その様子では間違って花びらを払い落としてしまいそうだったので、私はその手を掴んで、そっと頭の上の花びらに誘導してあげた。指に触れた花びらに気づいたヒナタは、それを掴んで自分の目の前に持ってきた。

「わ、花びらだー!花びらゲットできたー!」

ヒナタはその場でぴょんぴょん跳ねて喜んだ。ヒナタと繋いだままの姉の手は、その動きに合わせて激しく上下している。それを嫌がることもなく、姉は微笑んでいた。私もその2人の姿を見て、あたたかい気持ちになった。

Next