「久しぶり!」
「今何やってんの?」
ホテルのパーティ会場に集まったのは、高校の同級生たち。あの頃と同じ顔、ではなく、皆が皆、年相応の顔になっている。
「そっかあ、もう娘ちゃんも大学生かあ。」
「私たちも年とるわけだ。」
様々なライフスタイルを生きている皆が、かつては同じ学び舎で時間を共にしてきたのだ。
「そういやさ、覚えてる?2年のときの、」
「え、亡くなっちゃったの、!?」
「そうそう。入院も長かったんだけどさ。」
一緒に年を重ねられなくなった同級生もいる。時間の流れに逆らうことはできないから、私たちだって何も変わらないなんてできない。
アニメの世界では誰も年をとらないから、私たちもそうだったらいいのに、なんて昔は考えたりもした。こんなにも楽しい時間がずっと続いたらいいのに、なんて。
「ねえ、昔よく行った古着屋覚えてる?」
「覚えてる覚えてる!まだやってるのかな?」
「それが、リニューアルして店舗デカくなって、超綺麗になってんの!」
「ええ!?そうなの!?それはちょっと行きたい!」
10代のような若さはない。
ライフスタイルも住んでいる地域も違う。
それでも、こうやって会って話せばあの頃と何も変わらない。何年経っても、私たちの青春はここにある。
永遠なんて、ないけれど
よく晴れた日。まさにBBQ日和だ。
「うわ!後で川入ろ!?」
「いいね!絶対気持ちいいよ!」
大学4年生の夏。幸運なことにサークル仲間は自分も含めて、早々に納得のいく企業への内定を貰うことが出来て、大学最後の思い出づくりに集まってBBQをすることができた。
ザクザクと野菜を無心になって切っていれば、視界の端に重そうなものを持つあの子が入ってきた。そこへ颯爽と彼が近付いていく。
「俺が運ぶよ。」
「え、私でも別にそれくらい持てるって!」
「はいはい。俺が運びまーす。」
「もー!!」
サークル仲間との楽しい時間。移動中からずっと楽しかった。思い出話や卒業旅行の計画にも花が咲いていた。
「あの2人、ついに付き合い始めたんだってね。」
他の作業をしている子たちも同じ光景を見ていたのだろう。
「ねー!アイツのアプローチ凄かったのに、あの子鈍感だからさあ。」
彼が彼女にしてきたたくさんのアプローチは、私がアドバイスしたものがいくつもある。話を聞いて、相談に乗れば乗るほど、彼の一途さが素敵だと、いつの間にか目で追うようになっていた。だから、誰よりも彼には幸せになってほしいと思った。
「え!?ちょ、大丈夫!?」
肩を叩かれて、顔を覗き込まれて、初めて自分が涙を流していることに気付いた。手元を見れば、まな板の上には、輪切りにされた玉ねぎがあった。
「マジで玉ねぎ目に沁みるわ。」
「なんだ、玉ねぎか!吃驚した!」
涙の理由
生温くなったコーヒーを流し込めば、喉に貼り付くような苦味に思わず顔を顰める。
確かに自分にも至らないところはあった。責任も増えて任される仕事や、昔からの男友達を優先することも、少なかったとは言えない。でもその分、アイツも女友達を理由に予定を合わせられないことだってあった。
「…………。」
そんなことを思ってしまう時点で、俺たちはすでに終わっていたのかもしれない。相手を尊重せずに、やられたことをやり返すような関係性は、長続きしないだろう。
空になったカップには、何も残っていない。
優しげな店のマスターが近付いてきた。
「おかわりはいかがですか?」
「……じゃあ、お願いします。」
「はい、少々お待ちくださいね。」
まあでも、さよならを言った彼女を追い掛ける気力も湧かなかったし、コーヒーが冷めるまで、ここから動けなかったんだ。
遅かれ早かれ、こうなっていたのかもしれない。
「お待たせしました。」
マスターの手で、ポットから注がれたコーヒーからは、白い湯気が立ち上っている。さっきのコーヒーも最初は熱かったんだ。
「折角ですので、熱いうちにどうぞ。」
マスターに言われた通り、熱いうちに喉を通したコーヒーは、なんだか甘く感じて笑えてしまった。
コーヒーが冷めないうちに
1人で眠るには広いベッドで目が覚めた。ほんの少しの温もりに後ろ髪を引かれながらもベッドから抜け出した。
階段を降りて、洗面所の前に立つ。昨日と何ら変わらない酷く疲れた自分の顔。絵の中の住人なんかじゃないから、いくら水を掛けても肌の色が落ちたりしない。
テレビを付けて、冷蔵庫から母親が作って置いていってくれたカレーを取り出して、レンジに入れる。1分にタイマーをセットして、ボタンを押す。
最近はまた、物騒な事件が多いとニュースキャスターが言っているのを聞きながら、化粧ポーチを手に取った。
「おはよう」
階段から降りてきて、挨拶をされた。
「お、はよう」
「今日の夜さ、いつもの店でいいよね?」
「……うん。いつもの店に、19時だよね?」
「それ目指して仕事頑張るわ」
チン、と電子レンジが音を鳴らした。
現実に引き戻されるように、ぶわりと涙で視界が歪んだ。
「え、どうした!?」
昨日の私は絵の中の住人だったのだろう。そうじゃなきゃ、あんな黒い涙は流れなかったはずだ。昨日は真っ黒な服に黒い涙は全部吸い込まれた。
「ううん、何でもない。私も、今日の仕事頑張るよ」
そう言って、私は作った覚えのないクリームシチューを電子レンジから取り出して、テーブルに置いた。
昨日、君は私の居た世界から居なくなったのにね。
でも、ここが君のいる世界なら、私はここで生きてもいいよ。
パラレルワールド