『澄んだ瞳』
ずっと他人がちょっと苦手だった。何を考えているかわからなくて。
でも、親友の優里は違った。澄んだ瞳をしていて、屈託なく笑って、この子だけは純粋で、無垢なのだと思っていた。
「真里ー!一緒に帰ろー!」
「うん!帰ろう優里」
楽しそうに話す優里の横顔を盗み見ると、綺麗な瞳をぱちぱちさせながら常に笑っているかのような声で喋る。
だから優里に彼氏ができたときはショックだった。優里はずっと少女だと思っていた。
辛かった。だから噂を流した。優里の彼氏は小学生の時、私をいじめてきたやつだった。優里は中学校のときから一緒になったから知らなかったのだろう。優里が私に彼氏を紹介してきたとき、相手の笑みが引きつっていたのが見えた。
噂はすぐに広まった。私に対するいじめを傍観していた人も、喜々としていじめに関する話をしているようだった。私は辛かったね、と声をかけられる機会は増えたし、たくさんいる優里の友達は優里にその話をしてくれた。優里は涙目になりながら、私に謝ってきたし、彼氏を振った。
それでもまた優里に彼氏ができた。今度はどうしよう、と思った。その彼氏は高校から知り合った人間だった。でもその人はモテる人だった。その人のことを好きな人はいっぱいいた。その中でいちばんかわいい子を見繕って、放課後の変な魔力を借りてホテルに行ってもらった。所詮そいつも男だった。
その翌日、その噂が流れた。優里は泣きながら彼氏を振った。
もう懲りてくれ、と思ったが優里はまた彼氏を作った。ため息をつきながらどうするか考えた。今度のそいつは欠点がなかった。特筆すべき点が何もない。モテるわけでもない。それを考えながら親友として優里に接する。以前よりは笑顔が増えた気がする。でも、彼氏ができる前のほうがもっと笑っていた。
毎日、「彼氏と帰る!」という優里を見送る日が続いた。それでも優里の瞳は澄んだままだった。
仕方ないか、と思った。
『友情』
どこまでを友情と呼んでも良いものか、私にはよく分からない。友達の横顔にドキっとさせられることもあれば、他の人と親しそうに話していれば私と話せば良いのに、と思うこともある。
しかし、口づけようとは思わない。
女の子に触れるなんて、と思ってしまう。
限りなくあまいけど、恋愛感情かと言われると違う。これは何と呼ぶのだろう。やはり「友情」と呼ぶのが適しているのだろうか?
『花咲いて』
天上の楽園とは果たしてどのようなものか。天国は様々な創作物のモチーフにされ、楽園は様々な創作物にそれぞれの意味で登場する。作品の世界に没入し、楽園を踏破するとき、私は至上の美しさを垣間見るのだろう。花が咲き、天使が泉のほとりで休んでいるような。
私がいま読んでいる小説(と呼ぶのが正しくはないと思うが)にも楽園が存在する。
いまから楽園に足を踏み入れるのが、頗る楽しみだ。
『いま一番ほしいもの』
艷やかな黒髪を耳より下の位置にゆるく束ね、ヘアゴム隠しも忘れていないツインテール。入念な準備を経てつくられた前髪。ころんとした大きな目が特徴的な愛くるしい顔。これらの特徴を兼ね揃えているのが私の親友──春花こころだ。
こころは本当にとても可愛くて、存在がもう可愛くて。いつの間にか常にこころの隣にいたい、と思うようになっていた。
こころは性格もかわいいからモテるし、色んな女の子に話しかけられる。こころは常に引っ張りだこだ。
だから私はよく、こころをどこかに連れて行って、鍵をかけたいなあ、と思う。
ショートケーキといちごみるくでいっぱいの世界に連れて行って、月の光を浴びてきらきらと輝く、ピンクのリボンが結ばれた檸檬色の鍵でがちゃり、と鍵をかけてしまいたい。
かわいいこころを、かわいいで埋めて、致死量のかわいいを浴びたい。
それに、こころはかわいいが大好きだから、真っ白なショートケーキにピンクのリボンが飾られたケーキでお誕生日をお祝いしたら、つぼみがぱっと開くような花々しい笑顔が咲いた。
かわいいこころがかわいいこころに魔法をかけられて、かわいく微笑んでくれたら、それが私の夢なのかも。
こころがずっと私の隣で微笑んで、夢のなかで紡がれるような歌詞を、歌ってくれたらな。
「あ、優!こんなところにいたの?早く部活行こー!」
「うん、行こうこころ」
天使みたいな軽やかな足取りで部室に向かうこころの隣で歩く。こころと出会ってから、このかわいいの擬人化みたいなこころと出会ってから、私の人生ははじまったの。かわいいあなたが私に微笑んでくれるから、私はこうして歩いていられるの。
だからみんなあなたが好きなんだね。みんな、あなたのガラスの靴を見つけたいんだよ。
でも大丈夫。私が作り上げてあなたの足に履かせてみせるから。
私があなたにガラスの靴を履かせて、「私のお姫様はあなただったのですね」って、絶対に言うからね。
いま一番欲しいのは、春花こころ。
あなたの隣にいる資格。私があなたを独り占めしても良いっていう、証明。
そう、それが──ガラスの靴なの。
『私の名前』
私の名前はアルテミス。お母様が名付けてくれた…はずなの。
偶に不思議に思うことがあるの。
「アルテミス」
なんでお母様はこの名前を付けてくださったのだろう、って。
だって私の国の歴史神話諸々にアルテミスなんて名前の者は存在しませんもの。
単に名前の響きで決めたのかしら。解らないわ。
私は月の国の者。でも月の国の民であることはみんなに秘密にしてるの。
え?それじゃあアルテミスって名前はぴったりだって?
解らないわ。あなたは私の知らない何かでも知っているのかしら…
今週の「フェアリーロード」を読み終える。ゼロ時まで待った甲斐があった。「フェアリーロード」は、主人公である妖精見習いカリュプソが、大陸の国々を巡って宝物を探しに行く物語だ。今まで花の国、砂の国、夜の国…と巡り、最後に神秘の国である月の国に行くのがカリュプソの旅路である。国に入国するには国の民に認められる必要がある。しかし、月の国は神秘の国であるため、カリュプソはなかなか月の国の民を見つけることができなかった。しかし、今週、謎の少女アルテミスが登場した。
お分かりだろうか。アルテミス──ギリシア神話における月の女神。
もうこれはアルテミスが月の国の民で確定だろう。さてこれからカリュプソはどうやってアルテミスを絆していくのか。次週も楽しみだ。