『いま一番ほしいもの』
艷やかな黒髪を耳より下の位置にゆるく束ね、ヘアゴム隠しも忘れていないツインテール。入念な準備を経てつくられた前髪。ころんとした大きな目が特徴的な愛くるしい顔。これらの特徴を兼ね揃えているのが私の親友──春花こころだ。
こころは本当にとても可愛くて、存在がもう可愛くて。いつの間にか常にこころの隣にいたい、と思うようになっていた。
こころは性格もかわいいからモテるし、色んな女の子に話しかけられる。こころは常に引っ張りだこだ。
だから私はよく、こころをどこかに連れて行って、鍵をかけたいなあ、と思う。
ショートケーキといちごみるくでいっぱいの世界に連れて行って、月の光を浴びてきらきらと輝く、ピンクのリボンが結ばれた檸檬色の鍵でがちゃり、と鍵をかけてしまいたい。
かわいいこころを、かわいいで埋めて、致死量のかわいいを浴びたい。
それに、こころはかわいいが大好きだから、真っ白なショートケーキにピンクのリボンが飾られたケーキでお誕生日をお祝いしたら、つぼみがぱっと開くような花々しい笑顔が咲いた。
かわいいこころがかわいいこころに魔法をかけられて、かわいく微笑んでくれたら、それが私の夢なのかも。
こころがずっと私の隣で微笑んで、夢のなかで紡がれるような歌詞を、歌ってくれたらな。
「あ、優!こんなところにいたの?早く部活行こー!」
「うん、行こうこころ」
天使みたいな軽やかな足取りで部室に向かうこころの隣で歩く。こころと出会ってから、このかわいいの擬人化みたいなこころと出会ってから、私の人生ははじまったの。かわいいあなたが私に微笑んでくれるから、私はこうして歩いていられるの。
だからみんなあなたが好きなんだね。みんな、あなたのガラスの靴を見つけたいんだよ。
でも大丈夫。私が作り上げてあなたの足に履かせてみせるから。
私があなたにガラスの靴を履かせて、「私のお姫様はあなただったのですね」って、絶対に言うからね。
いま一番欲しいのは、春花こころ。
あなたの隣にいる資格。私があなたを独り占めしても良いっていう、証明。
そう、それが──ガラスの靴なの。
7/22/2024, 2:49:28 AM