箱庭メリィ

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12/10/2025, 1:50:47 PM

アルバムを開くと、手書きのコメントメモともに数々の写真が並んでいた。

『3ヶ月。おくちがかわいい』
『1歳。お手て振り返してるところ』
『3歳。お菓子をお預けされてふてくされてる』
『5歳。保育園の前で』

それから小学校の入学式や中学校の卒業式。
数多の思い出が貼られている。写真のそばには必ずと言っていいほど、吹き出し形のメモやふせんが貼られていた。

「大事なものって、これのことだったの――」

病気で入院した母の、まだ話せた時に預かった『大事なもの』。
辿々しくなってしまった言葉で、「私の大事なものがあるから」と教えてもらった。実家の両親の寝室のタンスの引き出し、3段目。

そこには、アルバムや私たちきょうだいが幼い頃に使っていたものがしまってあった。

「こんなもの、捨ててしまっていいのに」

それは私が小学生の時に母に送った肩叩き券だった。
菓子缶の中に大事そうにしまってあった。
他にもミミズが這ったような字の幼い私たちからの手紙や、母の日に送ったプレゼントの包装に使われていたであろうリボンまで大切に取ってあった。
嬉しさと気恥ずかしさで、痺れのような感覚が腕を走った。胸の奥が熱くなる。

「あぁ……」

もっと会話をしておけばよかった。もっと感謝を伝えるべきだった。
言葉の代わりに涙が溢れていく。
いなくなってから知る、いた人の大切さ。
当たり前すぎる存在が有難さを薄れさせてしまっていた。いや、そんなのは言い訳にすぎない。

気恥ずかしさが先行していつも言えずにいた。
今言えてもしょうがないのに。けれど言わずにはいられなかった。

「おかあさん、ありがとう……」

抱いたアルバムの表紙は、母の好きな赤地に金色の縁取りで猫がデザインされていた。


12/10『ぬくもりの記憶』


あなたがいないだけで
わたしは温めてもらえる指先が迷子になるの


/12/9『凍える指先』

12/8/2025, 3:07:07 PM

この先に進んだら、何かあるんだろうか。
何があるんだろうか。

僕たちはこの銀世界を進む。
明けるかも分からないこの冬を厳冬を。
来るかもわからない春を待ちながら。

ただあの人は言う。
「己のなすべきことをなしなさい」と。
「あなたがその剣を振るえば、世界は平和になるのですよ」と。
白い服を着たあなたが言う。

でもごめん。
僕は「仕事」を放棄するよ。
仕事しなくたって、平和になる方法はあるはずなんだ。
彼だけを犠牲にするなんてことは、僕は嫌だ。

だから、逃げてやる。
逃げて逃げて逃げ切ってやる。あの人の目の届かないところまで。

彼は誰にも奪わせない。
穏やかな幸せを君に捧ぐために、僕は君の手を取るよ。

さあ、鬼ごっこの始まりだ。


/12/8『雪原の先へ』

 とあるゲームオマージュ。
 彼を殺せば、世界は平和になるという。
 白の鳥と黒の鳥のいる美しき終焉の世界。


「はぁ〜」
息を吐くといつの間にか白くなっていた。
「はー」
ため息が白い息となり、空気に散り消えていく。

(私の悩みもあんなふうに消えることができたらいいのに)

手袋で覆った口元で呟いた。
吐ききれなかった吐息は、今日も飲み込んだ。


/12/7『白い吐息』

12/6/2025, 3:25:44 PM

一度灯ってしまった、この灯火は消えない。
どんなに吹き消そうとも消えてくれない。

吹き消すなんて、ウソ。
吹き消す形にした唇にあなたのキスが欲しい

ああ、どうしてこんなに消えてくれないのかしら。

あなたを好きになった気持ちの灯火が揺らめく。


/12/6『消えない灯り』

12/5/2025, 2:55:55 PM

クリスマスソングが流れる頃には、きっと君は僕のことなんて忘れているだろう。


夏の終わり。セミがようやく鳴き声を潜め、涼しくなった秋のはじめに、君は僕をフッた。

どうしてかと尋ねる僕に、君はありきたりな「他に好きな人が出来た」と嘘か本当か分からない言葉を告げ、僕の前から去っていった。

それからひとつ季節が巡った今日。
寒波が街にやってくる。天気予報で言っていた。テレビの日本地図が示す先週との最低気温の差を見て震えながら僕は仕事に行く準備をしていた。

高らかな声で本日の天気予報を教えてくれる気象予報士の後ろで、木々に飾られた電飾が目についた。

あれがきらめき出す頃。それは仕事が終わった頃。
去年は2人で歩いた街並みを、今年は1人で歩かないといけない。それも寒波がくるという気温の中を。

(去年の年末はネックレスをねだられたっけ)

マフラーを首に巻き、すっぽりと唇まで埋まりながら去年のクリスマスを思い返した。

(クリスマスにサプライズで別のネックレスをプレゼントしたら、微妙な顔されたんだよな)

もしかしてフラれた原因はそれもあるのかと、寒さが鼻をくすぐる中考えた。

『それでは今日も、気をつけていってらっしゃーい!』

テレビの中のキャスターたちがにこやかに手を振ったのを見て、僕はテレビを消した。

(やめやめ。来年には僕だってかわいい彼女とあそこに行くんだから)

夕方にはさっきのあの木々はイルミネーションとなり、夕方の番組でリポートされるのだろうなと思いながら、僕は玄関ドアを開けた。
叶うかも知れない消え入りそうに小さな野望の灯火を胸に灯して。


/12/5『きらめく街並み』



トン、トン、トン…………

モールス信号のような、胸を叩く音

トン、トトン、トトン……

君を見る度に音が変化していく

この鼓動は君への手紙

愛していると
こんなにも心音が叫んでいる

トトン、トトン、トトン

君には知り得ない
僕の秘密の手紙


/12/4『秘密の手紙』

12/4/2025, 9:39:50 AM

「冬といえば?」
「冬といえば〜?」

隣りにいる彼女から問われた。小首を傾げるさまが大変愛らしい。

「寒い、雪、鍋、肉まん、おでん――」
「もう、お腹空いてるの?ロマンないなぁ〜」

コートのポケットに手を突っ込みながら答えると、彼女は軽く頬をふくらませて唇をとがらせた。
どうやら彼女のご期待に添えない答えだったらしい。

「冬といえばさ」
「うわっ」

彼女はにこっと笑ったかと思うと、突然俺のコートのポケットに手を突っ込んできた。

「こうやって手を繋げることでしょ!」

彼女はぎゅっとポケットの中で俺と手を繋ぐと、ふふ、とはにかんだ。

「にぎにぎ〜。ほら、あったかい」

可愛い、と思ったが不意打ちすぎて何だか照れくさくて口に出来なかった。
代わりに視線をそらしながら、

「手なんていつでも繋げるだろ。恋人なんだから」

と答えた。
彼女はそうだね、と微笑み頷いた。


/12/3『冬の足音』

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