クリスマスソングが流れる頃には、きっと君は僕のことなんて忘れているだろう。
夏の終わり。セミがようやく鳴き声を潜め、涼しくなった秋のはじめに、君は僕をフッた。
どうしてかと尋ねる僕に、君はありきたりな「他に好きな人が出来た」と嘘か本当か分からない言葉を告げ、僕の前から去っていった。
それからひとつ季節が巡った今日。
寒波が街にやってくる。天気予報で言っていた。テレビの日本地図が示す先週との最低気温の差を見て震えながら僕は仕事に行く準備をしていた。
高らかな声で本日の天気予報を教えてくれる気象予報士の後ろで、木々に飾られた電飾が目についた。
あれがきらめき出す頃。それは仕事が終わった頃。
去年は2人で歩いた街並みを、今年は1人で歩かないといけない。それも寒波がくるという気温の中を。
(去年の年末はネックレスをねだられたっけ)
マフラーを首に巻き、すっぽりと唇まで埋まりながら去年のクリスマスを思い返した。
(クリスマスにサプライズで別のネックレスをプレゼントしたら、微妙な顔されたんだよな)
もしかしてフラれた原因はそれもあるのかと、寒さが鼻をくすぐる中考えた。
『それでは今日も、気をつけていってらっしゃーい!』
テレビの中のキャスターたちがにこやかに手を振ったのを見て、僕はテレビを消した。
(やめやめ。来年には僕だってかわいい彼女とあそこに行くんだから)
夕方にはさっきのあの木々はイルミネーションとなり、夕方の番組でリポートされるのだろうなと思いながら、僕は玄関ドアを開けた。
叶うかも知れない消え入りそうに小さな野望の灯火を胸に灯して。
/12/5『きらめく街並み』
トン、トン、トン…………
モールス信号のような、胸を叩く音
トン、トトン、トトン……
君を見る度に音が変化していく
この鼓動は君への手紙
愛していると
こんなにも心音が叫んでいる
トトン、トトン、トトン
君には知り得ない
僕の秘密の手紙
/12/4『秘密の手紙』
「冬といえば?」
「冬といえば〜?」
隣りにいる彼女から問われた。小首を傾げるさまが大変愛らしい。
「寒い、雪、鍋、肉まん、おでん――」
「もう、お腹空いてるの?ロマンないなぁ〜」
コートのポケットに手を突っ込みながら答えると、彼女は軽く頬をふくらませて唇をとがらせた。
どうやら彼女のご期待に添えない答えだったらしい。
「冬といえばさ」
「うわっ」
彼女はにこっと笑ったかと思うと、突然俺のコートのポケットに手を突っ込んできた。
「こうやって手を繋げることでしょ!」
彼女はぎゅっとポケットの中で俺と手を繋ぐと、ふふ、とはにかんだ。
「にぎにぎ〜。ほら、あったかい」
可愛い、と思ったが不意打ちすぎて何だか照れくさくて口に出来なかった。
代わりに視線をそらしながら、
「手なんていつでも繋げるだろ。恋人なんだから」
と答えた。
彼女はそうだね、と微笑み頷いた。
/12/3『冬の足音』
箱を開けたら、空っぽだった。
「これは、なに?」
「何って、プレゼントよ」
プレゼントと言って渡された箱は、それと言われて想像するまさにその箱で、綺麗にリボンでラッピングされたものだった。中身以外は。
「中身、ないんだけど」
「ほんとに?受け取りきれてないだけじゃない?」
「どう見ても何も入ってないよ。振っても音しないし」
左右に箱を振ってみても、かすかに風を切る音だけがした。
「まさかこんな変哲もない箱がからくり箱とか言わないよね?」
「まさかあ。よく見て、受け取って」
もう一度箱を見てみる。やはり何もない。
「どういうこと?」
「んもう!ロマンのわからない人ね。気持ちよ、気持ち!私の愛がたっぷり詰まってたでしょ?」
ふんとスネたかと思ったら、どうだと胸を張って言われた。そのいばる様はまるで王様だ。
「……そういうこと」
脱力したように箱を持つ手を下げる。
(そんなに言うのなら、こんなに仰々しい箱でなくてもよかったのでは?)
なんて思ったが、怒られるだけなので言わない。
今年のクリスマスは、「愛」をもらった。
(文字列だけ見ると美しいのに、この切なさはなんだろう)
/12/2『贈り物の中身』
凍えるような
すっきりとした星空の下で
君と飲むココアが好きなんだ
/12/1『凍てつく星空』
ただ隣を歩くだけ。
それだけでいい。
それだけで君と紡がれる毎日が彩られる。
/11/30『君と紡ぐ物語』
声が出なくなった。
彼女の声が出なくなった。
風邪を引いたわけでも、病気になったわけでもない。
突然彼女の声が出なくなったのだ。
普段から物静かな彼女だから、コミュニケーションを取るのは、そう難しいことではなかった。
喋らずとも伝わる。
ひとつだけ困ったことが、彼女の歌が聞けないことだった。
街で流行りの歌手より、僕は彼女の歌のほうが好きだった。
なのに、今はその歌声が聞けないのだ。
(いつか聴けるようになるのかなぁ?)
じっと彼女を見つめると、思っていることが伝わってしまったのか、彼女は困ったように笑った。
11/29『失われた響き』
「冷たっ」
自分の悲鳴で目が覚めた。
突然覚醒した頭とまだ寝ぼけている目をこすって、ゆっくり体を起こした。いや、起こそうとした。右側の布団が持ち上がらなかったのだ。
犯人は最近同棲し始めた彼女。猫のように体を丸めて僕の隣と布団を陣取っている。
「また……?」
思わず口について出た。
朝が冷え込めば冷え込むほど彼女が布団に潜り込んでくる確率が上がってくる。
それだけならいいのだが――。
(毎回冷たい足を僕の足であっためるの、やめてほしいんだよなぁ……)
11/28『霜降る朝』
毎日忙しい日々
深く呼吸をすることすら忘れて
溺れてしまいそうになる
そんな時こそ深呼吸して
リセットすることを忘れずに
たまには
好きなことする日もいいよ
11/27『心の深呼吸』