カサリ、クシャリと地面を踏みしめる度に音がする。
紅く黄色く色づいた葉達は、成熟して生まれ育った木を離れた。
そんな落ち葉たちが集まる並木道。
「今日も多いなぁ」
「掃除ついでに焼き芋でもしましょうかねえ。たくさんいただいたんですよ」
管理人がほうきを片手に知人に言った。
ガサガサと集められた葉達は、一箇所で山を成していた。
あとはさつまいもを温めて、その生を終えるのを待っている。
/11/25『落ち葉の道』
ガチャン、と鍵のかかった音がした。
「どうして?」
問いかけても君は知らんぷり。
鍵を開けてほしいとお願いしても、君は知らん顔。
ならば開けてやると周囲を探すも鍵は見つからず。
「どこにやったんだ!」
苛々を隠せず思わず喚くと、君はツンとそっぽを向いた。
意固地になって手当たり次第に探せど見つからなかった。
「いったいどこに隠したんだ……」
額から汗が流れてくるのも気にせず引き出しの中や押し入れを探した。
とある戸棚の扉を開けた時のことだった。
ごくん。
と目を離した隙に嚥下する音がした。
君の心を開ける鍵を、君は飲み込んでしまった。
僕には一生見せてくれないということか。
/11/24『君が隠した鍵』
手放した時間。
・睡眠時間
・睡眠時間の代わりにした娯楽
・ごはんの時間
・ごはんを食べる間でした仕事
・すべてが出来なくなって布団の中で過ごすこと
どんなことでも何かしらの経験値にはなるはず
何もしてない時間は「何もしてない経験」だから
手放すのはやめにして、それも必要だったと認めてあげて
/11/23『手放した時間』
目の前を紅が翻った。
紅と黒のコントラスト。
ふわりとテーブルクロスでもかけるような動きで重力に負けていったコートは、後を追った彼の髪が重なった。
「なん、で……」
乾く口からそれだけ出すと、彼は首だけ振り返りながら言った。
「言ったでしょ?あんたがどんなとこにいたって迎えに行くって」
「言っ、たけど……」
「俺はもうあんたのこと離してやれなくなっちゃったからさ、置いてかれたら追いかけるしか出来ないわけ」
ニコリと戦場に似合わない笑顔を見せ、彼はヒールを鳴らして敵陣に突っ込んでいった。
家を出るとき、誰にも何も言わなかった。
それなのに彼は、私との繋がりだけでここを探り当てたのだ。
あんなに喧嘩したのに。あんなに彼を傷つけたのに。
彼はそれでも私を追いかけてきた。
私が数年前にぽつりと漏らしただけの、私だけの思い出の場所に。
その真剣さに彼はもう私を手放す気なんてないのだと実感して、安堵したはずの心が震えた。
/11/22『紅の記憶』
覚書。浮かんだとこだけ。
ぱち、と世界が切り替わった。
朧気な頭と視界で、今はどこにいるのかと考える。
(あぁ、起きたのか)
ぼんやりと思考が働かないまま、それだけ認知できた。頭はまだ夢の中だ。
今日の夢は、駅のホームでなぜかお姫様の私が、突然線路に現れた大きなドラゴンを倒そうとするもの。
ピンクのドレスの裾をたくしあげ、かなり強敵なドラゴンに立ち向かっていた。レベル差はあるものの、私は何故かいい勝負ができると思っていた。
だんっと足がホームを踏みしめ、ドラゴンに声高々と何かを宣言し呪文の詠唱を始めたところで、記憶がぼやけている。
(あー、もう少しなんたけどな。思い出せないかな)
夢の断片は散り散りに頭の中にあるものの、それが繋がることは稀だ。
今こうして思い出せるだけでも珍しいのだ。
「ドラゴン、倒したかったのになぁ」
目隠しをするように顔の上に腕をのせ、もう少し断片が繋がってくれないかと目を瞑るのだった。
そして二度寝してしまった私は、学校に遅刻した。
/11/21『夢の断片』
見えない未来というけれど
未来はそもそも見えないもので
真っ暗か明るいのかも誰も知らない
だから僕は前を向いて歩き続けるだけ
前を向けなくても下なら見れる
俯いても進むことはできる
止まってもいつか進めばいいだけだもの
僕は未来は見えなくたっていい
/11/20『見えない未来へ』
風が頬を撫で、私に触れて、向こうへ吹いていった。
吹き抜ける風は私をダンスへ誘うように、私の体を撫でていく。
(お誘いをありがとう。でもね)
さらさらと髪を巻き上げて、風はどうしてと私の手を引きたいようだ。
ふわりと収まったときに、ぽつりとつぶやいて返事をした。
「ごめんね。今風邪を引くわけにはいかないの」
びゅうっ、と悲しげに、すねるように風は私の横をすり抜けていった。
/11/19『吹き抜ける風』
燈火をそっと入れた。
ぽうっと明るくなったそこは、たくさんの箱があり、色が明るいものと暗いものに分かれていた。
「あぁ、こんなとこにあったのか」
悲しいところに積み重なった箱たちの中に見覚えのある箱を見つけた。
それは封じ込めた遥か昔の記憶。
どうして封じ込めてしまったのか、それはこの箱の鍵を開ければ分かるだろう。
でも、僕は見るのをやめた。
封じているということは、思い出さなくていいということだ。
「思い出すときは、思い出すさ。それまで――」
ここに長居は無用とばかりに、僕は記憶の部屋を照らしていたランタンの火を吹き消した。
/11/18『記憶のランタン』
冬へ
今年も君に会える時がやってきましたね。
君に会うと息が白くなるからすぐにわかります。
君に会うのは嫌いではないけれど、どうか突然来るのだけは勘弁してほしいな。
もう少し先の日々で、待っているね。
/11/17『冬へ』
君の笑顔が守れるなら
僕は月にだってなったって構わない
誰かに照らされて姿が見える月でもいい
/11/16『君を照らす月』
ニャア、と黒猫が鳴いた。
少女の足にじゃれつく子猫は、前足で飛んできた蝶を追いかけている。
少女は気にもたれかかり、本をひざの上に置いて船を漕いでいた。
時折カクン、と首が揺れる。
子猫が少女のひざの上に乗った。
蝶を追いかけた前足が止まり、動きが止まる。
子猫が見上げた先に、木の葉の間から太陽の光が漏れていた。
陽光が目に入ったのか、ナァン、と子猫が鳴いた。
「どうしたの?」
その声に起こされたように、少女が目を覚ました。
「何か面白いものでも見つけた?」
少女は前足を上げたままの子猫の頭を撫でた。
そしてひとつあくびをすると、ひざの上の本を手に取った。
「先生の宿題を済ませなくちゃね」
そして子猫を抱きかかえると、ぽつりと呟いた。
木漏れ日に照らされた読みかけのページを開いて。
/11/16『木漏れ日の跡』