ふうーと息を吹きかけると、その先端は僕の息に合わせて揺れた。
もうひとつ。ふーっ。
「それ、楽しい?」
羽根に息を吹きかけられている当人がつまらなさそうに尋ねた。
「うん、楽しい」
僕は表情は変えぬまま答えて、もう一度ふーっ。
かれこれ10分はやっているだろう。
天使の彼女は自分の羽先をひたすら吹き続けられるという苦行に耐えている。
「わたし、何かしてていいかな?」
「もう少し我慢して。少しでも動くと揺れ方が変わってしまう」
僕が答えると、彼女は呆れてため息をついた。
/10/25『揺れる羽根』
コンコン、とノックの音が聞こえる。
私はそれに応えず耳を塞いだ。
今は誰にも会いたくないの。
コンココン、とリズムを変えてノックをされた。
会わないって言ってるでしょう。どこか行って。
私はノックの音に応えなかった。
ノックと無視。
何度か繰り返すも、それでも私は応えなかった。
ここは私だけの空間。
私だけの心。
無闇に開けるものではないの。
ノックの音が遠ざかってしばらく。
そぉーっと私は、私の秘密の箱にガチャリと鍵をかけた。
/10/24『秘密の箱』
無人島に行くならば
あなたとさいごを迎えたい
/10/23『無人島に行くならば』
ピュウと冷たい風が吹いた。
つい先日まで太陽が「この地は我が物ぞ」と言わんばかりに主張していたのに、最近は穏やかに微笑んでいる。
街の並木も少しずつ色づいてきて、季節はすっかり秋模様。
「涼しくなるのはいいけどさ、朝晩の寒暖差はどうにかしてほしいよね」
「風邪引いちゃいそうだよね」
皆さま、どうぞご自愛を。
/10/22『秋風🍁』
私はエスパーだ。
いつもテストのヤマが外れたり、二択でハズレを選びがちな私だけれど。
この予感は、当たる気がする。
校舎裏で、私を呼び出した彼が恥ずかしそうに視線を合わせ逸らししている。
(これは告白だ!)
いくらモテない、鈍い、女っ気ない私でも、このシチュエーションはわかる。
(告白だ……!)
彼の緊張が伝わるかのように私も心拍数を高めながら、告白されるのを今か今かと待ち構えていた。
「あの――」
(きた!)
何分経っただろうか。彼がようやく口を開いた。
「あの、高見さん、言いたいことがあるんだけど――」
「な、なにかなっ?」
思わずどもってしまう。
「高見さん、ずっと迷ってたんだけど。今度、高見さんちのお店に行ってもいいかな!」
「はい!え――?」
告白よろしく勢いに任せて言い切った花野くんは、顔を真っ赤にしていた。その言葉はラーメン屋をしている「うちの店に来てもいいか」。
同じく告白がくると思って(『告白』には違いないが)勢いよく返事をした私は、思わず問い返していた。
「いいの!?やった!ありがとう!」
「え、え?どういうこと?」
「ぼく、ずっと君のとこの店が気になってたんだ。でも同級生が行くの嫌かなって気になって、なかなか行けなくて……。でも君の許しを得たから、これで堂々と行けるよ!ありがとう!」
「え?あ、うん。お待ちしてます」
真っ赤な顔をして嬉しそうに言った花野くんの勢いに飲まれた私は、店員モードで返事をするのがやっとだった。
「なに、よ……」
恋愛の告白だと思っていた自分が恥ずかしい。
いやそれより、告白だと思わせるような態度で尋ねる方も悪い。わざわざ校舎裏に呼び出して言うことがそれだったのかと甚だ疑問に残る。
「乙女の純情を返せ!」
ショートカット故に揺らめきもしない髪が私の叫びに震えた。
これで私の予感はまたハズれた。
/10/21『予感』
「ねぇ、『friend』の綴りってどうやって覚えた?」
「え?『フリエンド』?」
「あははっ、やっぱり?」
君もそう覚えてたんだね。
他にも親近感がわくこといっぱいだ。
だから、友達の『フリ』はもう『やめ』にして、
「これからは、恋人になりませんか?」
/10/20『friend』
大好きだった君の声が聞こえなくなった。
感情をあまり表に出さない君は、だけど歌声だけは雄弁に響き、僕の心を満たしていた。
そんな君の声が、突然聞こえなくなった。
あれだけ分かりにくかった君の表情が、見るも無惨に暗く落ち込んでいた。
何があったのかを聞いても首を横に振るだけ。
君は暗い顔のまま、日々を過ごしていた。
とある日。
僕が物売りの仕事を終え森を抜けて帰ってくると、聞き覚えのある声がした。君の声だ。メロディに乗っている。
(歌を歌っているんだ)
もう聞くことのないだろうと思っていた歌声。
それも楽しそうに響く歌声。
(ああ、こんなに楽しそうに)
久しぶりに聞いた君の声は、明るく春の訪れを表しているかのような音色だった。
/10/19『君が紡ぐ歌』