大好きだった君の声が聞こえなくなった。
感情をあまり表に出さない君は、だけど歌声だけは雄弁に響き、僕の心を満たしていた。
そんな君の声が、突然聞こえなくなった。
あれだけ分かりにくかった君の表情が、見るも無惨に暗く落ち込んでいた。
何があったのかを聞いても首を横に振るだけ。
君は暗い顔のまま、日々を過ごしていた。
とある日。
僕が物売りの仕事を終え森を抜けて帰ってくると、聞き覚えのある声がした。君の声だ。メロディに乗っている。
(歌を歌っているんだ)
もう聞くことのないだろうと思っていた歌声。
それも楽しそうに響く歌声。
(ああ、こんなに楽しそうに)
久しぶりに聞いた君の声は、明るく春の訪れを表しているかのような音色だった。
/10/19『君が紡ぐ歌』
10/19/2025, 2:17:08 PM