もしも、もうひとつの世界があるとするならば――。
もしも、もうひとつの世界の僕が、告白をしたならば――。
君の世界は闇に包まれて、二度と明るくなることはないだろう。
僕は君の笑顔が好きだ。
君の世界を暗くしたくない。
だから僕は、君に嘘をついた。
「かわいそうに。君のお父さん、殺されちゃったんだってね」
赤く汚れた手を背中に隠したまま、僕は君に笑いかける。
もしもこの世界の僕がこのまま嘘を吐き通したならば、君はこれからも僕に微笑んでくれるのだろうか。
/9/26『パラレルワールド』
針が逃走劇をやめた時、長身が短針に追いついた。
時計の針が重なって、時計塔の鐘が鳴った。
「私、もう帰らなくては」
「待って!せめて名前だけでも」
「ごめんなさい。もう行かなくては」
鐘が鳴っている時に繰り広げられた、新しい逃走劇の始まり。
シンデレラは、王子の手を振りほどき、カボチャの馬車へと急いだ。
靴が片方脱げているのに気づかずに。
/9/25『時計の針が重なって』
「手を出して」
言われるがまま手を伸ばした。
差し出した手は勢いよく引かれて、ふわりと窓の外へ体ごと飛び出した。
落ちる、と思った体は、しかし重力に負けることなく空中へ浮かんだ。
「妖精を信じたからさ。妖精の粉で空が飛べるんだ」
彼はそう言った。
「さぁ、ネバーランドへ行こう」
彼は手を繋いだまま空の果てを指差した。
9/24『僕と一緒に』
曇ったグラスと同じように
僕の心には靄がかかっている
磨いても取れることのない曇り
太陽が降り注ぐ日は来るのだろうか
9/23『cloudy』
虹の端っこはどこにあるのかな?
探しに行ってみよう
虹の端っこを見つけたら、向こう側に声をかけるんだ
「今からそちらに渡りますよ」って
そしたらきっと会えるよね
橋の向こうで君が待っているはずだ
もしも虹の橋を見つけたら
先に虹の橋を渡ってしまった君に会いに行くよ
/9/22『虹の架け橋🌈』
ブブブッ
ブーブブッ
スマートフォンがバイブレーションを鳴らす
ブーブブッ
ブーブブッ
私の座った正面の席にあるスマートフォンが体を震わせる。
『大好き』
『愛してる』
『会いたい』
私のメッセージアプリ欄に並ぶ言葉たち。
そのメッセージたちは、ずっと既読が付かない。
目の前にあるスマートフォンが送信先で、誰も見ていないのだから当然だ。
ブーブブッ
ブーブブッ
『ねぇ、会いたい』
『いまどこにいるの?』
誰も見ることのないスマートフォン。
主を亡くしたスマートフォン。
大事な大事な彼は、先日事故に遭ってもう帰ってこない。
答えの返ってこないスマートフォンに、私はメッセージを送り続ける。
/9/21『既読がつかないメッセージ』
朝が涼しくなってきた
夕方が終わるのが早くなってきた
夜に虫が鳴き出した
セミの騒がしさが静かになった途端
世界は秋の色に染まりだした
/9/20『秋色』
すべてを失っても
君の左隣にいたい
もしも世界が終わるなら
僕が君を隠してしまおう
/9/19『もしも世界が終わるなら』
ほどけた靴紐を結び直すように
あなたとの縁も結び直せたらいいのに
/9/18『靴紐』
「行く、行かない、行く、行かない……」
花占いの花の代わりに足元の草を抜きながら、太一はぶつぶつ唱えていた。
今は体育の時間。膝を抱えたいわゆる体育座りでクラスごとに裏庭に整列している。
今から校内の草むしりをしようというところだが、太一の行動はいち早く草を取ってやろうという殊勝な心掛けからではもちろんない。
「おい、何やってんだよ」
太一の後ろから良平が声をかけてきた。先生の説明も聞かず、何かを呟きながらぼんやりと草をむしっているのだから当然だ。
「え?なに?」
「なにはこっちのセリフだよ。まだ始まってないぞ」
「あー、うん」
ぼんやりとした太一の返事に心配になった良平は、各自各場所に解散となった後、改めて声をかけた。
「なあ、どうしたんだよ」
「どうもしないよ?」
「どうもしないわけあるか。なんか呟いてただろ」
「あー、聞かれちゃったか」
気まずそうに、照れくさそうに後ろ頭をかく太一に、良平は頭上に疑問符を浮かべた。
「おれさ、佐野さんに告白しようか迷ってんだよね」
「はあ」
「で、勇気が出ないから、花占いならぬ草占いしてたわけ」
「そんで?」
「まだ告るか答え出てない……」
「なんだよそれ!」
足元の草を抜きながら白状した太一の、しかし釈然としない答えに良平はツッコんだ。
「あんだけブツブツ言いながら答え出てねーの?早く告っちまえよ!」
そして、もじもじもぞもぞ草を抜くでもなくいじっている太一の背中を励ますように叩いた。
/9/17『答えは、まだ』
きみと旅をした。
きみの心と旅をした。
すでに遠くなってしまった、もう戻れない距離。
手繰り寄せたくても、きみの心ははるか彼方、海の向こう。
僕の心は波にさらわれて、どんどんきみから引き離されて。
気が付けば僕は対岸にいた。
遠い遠い対岸。
一度岸についてしまえば、あとはそこから手を振るだけ。
波にたゆたうことも出来ず、きみに少しも近づけない。
粉々になってしまった僕の心は、まだ怪我をしてしまいそうなシーグラスとなって砂浜に落ちている。
/9/16『センチメンタル・ジャーニー』