箱庭メリィ

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「行く、行かない、行く、行かない……」

花占いの花の代わりに足元の草を抜きながら、太一はぶつぶつ唱えていた。
今は体育の時間。膝を抱えたいわゆる体育座りでクラスごとに裏庭に整列している。
今から校内の草むしりをしようというところだが、太一の行動はいち早く草を取ってやろうという殊勝な心掛けからではもちろんない。

「おい、何やってんだよ」

太一の後ろから良平が声をかけてきた。先生の説明も聞かず、何かを呟きながらぼんやりと草をむしっているのだから当然だ。

「え?なに?」
「なにはこっちのセリフだよ。まだ始まってないぞ」
「あー、うん」

ぼんやりとした太一の返事に心配になった良平は、各自各場所に解散となった後、改めて声をかけた。

「なあ、どうしたんだよ」
「どうもしないよ?」
「どうもしないわけあるか。なんか呟いてただろ」
「あー、聞かれちゃったか」

気まずそうに、照れくさそうに後ろ頭をかく太一に、良平は頭上に疑問符を浮かべた。

「おれさ、佐野さんに告白しようか迷ってんだよね」
「はあ」
「で、勇気が出ないから、花占いならぬ草占いしてたわけ」
「そんで?」
「まだ告るか答え出てない……」
「なんだよそれ!」

足元の草を抜きながら白状した太一の、しかし釈然としない答えに良平はツッコんだ。

「あんだけブツブツ言いながら答え出てねーの?早く告っちまえよ!」

そして、もじもじもぞもぞ草を抜くでもなくいじっている太一の背中を励ますように叩いた。


/9/17『答えは、まだ』



きみと旅をした。
きみの心と旅をした。
すでに遠くなってしまった、もう戻れない距離。
手繰り寄せたくても、きみの心ははるか彼方、海の向こう。

僕の心は波にさらわれて、どんどんきみから引き離されて。
気が付けば僕は対岸にいた。
遠い遠い対岸。
一度岸についてしまえば、あとはそこから手を振るだけ。
波にたゆたうことも出来ず、きみに少しも近づけない。

粉々になってしまった僕の心は、まだ怪我をしてしまいそうなシーグラスとなって砂浜に落ちている。


/9/16『センチメンタル・ジャーニー』

9/16/2025, 12:33:05 PM