もしも、もうひとつの世界があるとするならば――。
もしも、もうひとつの世界の僕が、告白をしたならば――。
君の世界は闇に包まれて、二度と明るくなることはないだろう。
僕は君の笑顔が好きだ。
君の世界を暗くしたくない。
だから僕は、君に嘘をついた。
「かわいそうに。君のお父さん、殺されちゃったんだってね」
赤く汚れた手を背中に隠したまま、僕は君に笑いかける。
もしもこの世界の僕がこのまま嘘を吐き通したならば、君はこれからも僕に微笑んでくれるのだろうか。
/9/26『パラレルワールド』
針が逃走劇をやめた時、長身が短針に追いついた。
時計の針が重なって、時計塔の鐘が鳴った。
「私、もう帰らなくては」
「待って!せめて名前だけでも」
「ごめんなさい。もう行かなくては」
鐘が鳴っている時に繰り広げられた、新しい逃走劇の始まり。
シンデレラは、王子の手を振りほどき、カボチャの馬車へと急いだ。
靴が片方脱げているのに気づかずに。
/9/25『時計の針が重なって』
9/25/2025, 2:54:12 PM