箱庭メリィ

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6/15/2025, 9:46:13 AM

もしも君が 僕のことを好きだと言ったなら
僕は君を閉じ込めてしまうだろう

大きな鳥籠の中に ベッドとサイドテーブルを置いて
鳥籠にはレースのカーテンを引こう

僕は時折カーテンの中を覗いて君に言うんだ

「大好きだよ」って

僕の「好き」は こんな好きなのだけれど
君はそれでも 僕を「好き」だと言ってくれる?


/6/15『もしも君が』

6/14/2025, 9:55:06 AM

「お魚がー、釣れましたー」
「なにそれ」

 妻がキッチンで魚を捌きながら歌い出した。

「三枚にー下ろしましたー」
「うん、そうだね」

 僕は隣でサラダ用のレタスをちぎりながら様子を見ている。

「みっつはそれぞれに膨らまないからー、元の形になりませんー」
「なにそれ。なんでそんなに音詰めるんだい」
「出来るのはー、アージフーライ♪」

 楽しそうに歌う妻は、下ろし終えた魚をバットに移し、フライの準備を始めた。
 僕は調子が合っているのか外れているのか分からないその歌を、どこかで聞いた覚えがあった。

「それなんだっけ? どこかで聞いたな。それにしても外し過ぎじゃない?」

 火にかけた油が適温になるのを待っている彼女に、何度目かのツッコミで耐えきれずに指摘すると、彼女は音がするほど勢いよくこちらを振り向き、

「ちがうよ! リスペクトよ! 音に遊ぶと書いて音遊よ!」

 一息に言った。

(あぁ、思い出した。リスペクトね。音遊ね。言ってたものね)

 リスペクトを含んだ音遊は、彼女だけのメロディを作り出す。
 そして「人は〜」と、魚を油に入れながら次の歌を歌い出した。やっぱり音遊で。


/6/14『君だけのメロディ』


オマージュ元分かった人はおともだち。

6/12/2025, 11:41:41 PM

『I Love You』というシールを、私はいくつも持っている。

今日はあなた、明日は別のあなた、明後日はまた別の。
いいえ、何も日をまたぐ必要はない。数時間後で十分。

「愛しているわ」
「僕も。愛しているよ」

シャワーを浴びている間に、こっそり財布だけ抜き取ってサヨウナラ。
そして『あなた』から剥がした”シール“をとった『財布』に貼り直すの。

「愛しているわ」

増えていく財布に口づけを。

今日も新しい獲物に『I Love You』を囁く。


/6/12『I Love』

6/11/2025, 2:36:53 PM

 目を覚ますと、そこは白い世界だった。
 白い天井、白いカーテン、白い布団、そして白い包帯が巻かれた左手首。

(ここは――病院?)

 意識がだんだんはっきりしてくる。

(先程まで見ていたのは夢だったのか――?)

 まだ少しまどろみの残る頭で考える。薄く残った景色の残滓は、たくさんの客が入ったホールで、僕があんなに練習していた難関曲を弾き遂げたシーンだ。拍手や歓声、掠れた指笛まで聞こえていた。

(夢だったのなら、あの音の正体はなんだ?)

 疑問に思い音のする方へ顔を向ければ、どうしてそんな夢を見たのか自明だった。夢で聞こえたのと同じような音が外でしていたからだ。
 窓の外では、薄いカーテンのように雨が降っており、時折風で煽られては窓を叩く。拍手が強弱して聞こえていたのはこの音のせいだろう。

(なんだ、夢だったのか……)

 ようやく叶えた悲願が夢だったと知り、大きく息をついた。それは無念さだったのか、安堵だったのか、自分でもよくわからない。

 確かにおかしな点はいくつもあった。
 演奏直後に順位が決まるわけないし、優勝はまだわからない。そんな時点で、いくら感動したからといって、関係者席にいるカメラマンが不躾にフラッシュを焚くわけがないのだ。

(結局僕は、あの曲も弾けないし、両親にも見捨てられたまま――)

 さぁぁぁ、という拍手のような雨音が窓の外でしている。
 窓を向いた顔の反対側――僕の背後に、カツカツ、コツコツと聞き慣れた革靴とヒールの音が聞こえ始めた。


/6/11『雨音に包まれて』

(5/26『やさしい雨音』の続き)

6/10/2025, 7:03:01 PM

長い髪を伝っていった水滴が、髪先から雫となって落ちた。
僕を見下ろす透明な眼差しが、僕の見た最後の景色。

「どうして?」
浮かぶ疑問は声にはならなかった。

代わりに僕の口からはいくつもの水泡が地上へ逃げていった。

湖の桟橋から引きずり落とされた僕。
差し伸べたはずの手は気がつけば水中に、視界は反転して湖が空になっていた。
薄曇りの空はこの人の髪色を写したようだった。

すぐさま桟橋に上がろうとした僕を、その人は突き落とした。
どんっと押された途端に、重しでもつけられたかのように後ろへ沈んでいく。
先程軽々と泳いだ体は重く、腕のひとかきもできなかった。

不思議に思いこんがらがる頭と、早く上がらなければと焦る気持ち。
だが、そのふたつを塞ぐかのように僕を支配していたのは、

(美しい)

あの人を見て浮かんだ一言だった。

その一言に支配されたまま、僕の体と意識は、闇に沈んでいく。


/6/10『美しい』





ただ正直に生きているだけなのに
ただ人に優しく生きているだけなのに

なぜこんなにも苦しい思いばかり
しなければいけないのか

なぜ私の周りの人は
いなくなってしまうのか


/6/9『どうしてこの世界は』

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