箱庭メリィ

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「お魚がー、釣れましたー」
「なにそれ」

 妻がキッチンで魚を捌きながら歌い出した。

「三枚にー下ろしましたー」
「うん、そうだね」

 僕は隣でサラダ用のレタスをちぎりながら様子を見ている。

「みっつはそれぞれに膨らまないからー、元の形になりませんー」
「なにそれ。なんでそんなに音詰めるんだい」
「出来るのはー、アージフーライ♪」

 楽しそうに歌う妻は、下ろし終えた魚をバットに移し、フライの準備を始めた。
 僕は調子が合っているのか外れているのか分からないその歌を、どこかで聞いた覚えがあった。

「それなんだっけ? どこかで聞いたな。それにしても外し過ぎじゃない?」

 火にかけた油が適温になるのを待っている彼女に、何度目かのツッコミで耐えきれずに指摘すると、彼女は音がするほど勢いよくこちらを振り向き、

「ちがうよ! リスペクトよ! 音に遊ぶと書いて音遊よ!」

 一息に言った。

(あぁ、思い出した。リスペクトね。音遊ね。言ってたものね)

 リスペクトを含んだ音遊は、彼女だけのメロディを作り出す。
 そして「人は〜」と、魚を油に入れながら次の歌を歌い出した。やっぱり音遊で。


/6/14『君だけのメロディ』


オマージュ元分かった人はおともだち。

6/14/2025, 9:55:06 AM