あなたと最後に会った日。
あなたはベランダでタバコを吸っていましたね。
「こんなとこで吸ってるとバレますよ」
「また校長に叱られますよ」
そんなことを言うとあなたは、いつものようにニヒルに笑って
「バレなきゃいいんだ」
と親指でタバコを弾いて灰を落としました。
どうしてか、その日に限って、その笑顔がとても寂しく見えました。
森の木々のおかげで陰る夕焼けが、よりそう見せたのかもしれません。
早く帰れと言われたので、教室を出ようとなんとはなしに扉に手をかけて振り向きました。
珍しく手を振って見送ってくれました。
あれが気のせいではなかったと気づいたのは、翌日の朝でした。
あなたはもうこの世にいないことが、朝礼で告げられました。
/6/26『君と最後に会った日』
ただ心身ともに健康でありますように
迷いなく続けていられますように
/6/24『1年後』
子どもの頃はただ信じるだけで良かった
疑うことなんて知らずに
騙されず騙さず
見聞きするものはすべて真実
だったのに――――
/6/23『子供の頃は』
これは夢だ。
わたしは今、夢の中にいる。
(これが明晰夢ってやつなのかな? だったら今すぐ覚めてほしい。なぜなら――)
何故なら今、わたしは何かに追われているから。
それが何なのかはわからない。
けど、とても怖い。
後ろを振り返って確認したいが、とてもそんな余裕はない。
もつれそうな足を懸命に動かして走る。走る。
(バス停のあるビルを曲がれば少しはまけるだろうか!?)
知らない場所のはずなのに、その先に何があるかを理解していたわたしは、まっすぐ行くと見せかけて角を曲がった。
追いかけてきた何かは目論見通りすごいスピードで直進していった。
(これで一安心)
路地の影から何かが通り過ぎるのを見て息を吐いた。
しかし頭の奥で警鐘が鳴っている。“わたし”ではないわたしが言っている。神視点のわたしが言っている。安心するのは早いと。
それを頭のどこかでわかっているのに、何かをまいて気を抜いた“わたし”は気づかなかった。
何かが過ぎた通りを背にし、路地を通り抜けようと前を向いた時。
“それ”は目の前にいた。
息を呑む。
形は同じだが先程と別の個体だと何故かわかった。
だが危機的状況は同じ。
(やばい!起きろ!起きろ!)
体が硬直する。動けない。
目の前の影のかたまりのような真っ黒い何かは、大きな口を開けてわたしを飲みこんだ。
夢から覚めたのは、飲み込まれる瞬間。
目覚めた私は、怖い夢を見た記憶しかない。
起こした体にパジャマが貼り付いている。
(私はなにから逃げていた――?)
/05/30『ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。』
「あら、あなたも?」
「ええ。貴女もですか」
とある喫茶店の軒下で出会った。
二人は共に雨避けを探していた。
二人して軒先から滴る雫を眺めていると、背後に明かりがついた。
振り返ると、喫茶店のマスターらしき髭をたくわえた初老の男性がドアを開けて立っていた。
「こんばんは。雨宿りですか?」
マスターの言葉に二人は無断で軒下を借りたことを謝罪し、もう少し借りられないか尋ねた。
マスターは二人に少し待つよう言い、奥から傘を一本取ってきた。
「一本しか無くて申し訳ないが、こちらをお貸ししましょう。二人で差していきなさい」
二人は遠慮し合ったが、行き先が同じ駅なことが分かると、マスターの後押しもあり二人で傘を借りることにした。
二人を見送った後、喫茶店の明かりは静かに消えた。
駅までの道行で、二人が実は同じような悲しみを持った者同士だった話は、また今度。
哀合傘/6/19『相合傘』
コーヒーをご馳走してもらうver.はいつか。
あした、きょうよりも
じぶんを好きになることができたなら
それはすばらしいことだとおもう
あしたの好きのために
今日につながる未来を
悔いは残っても
引きずらないように
未来を信じられるのは自分だけ
/6/17『未来』
一年前は消えたいと思ってた
二年前は体が動かなかった
五年前はもう死にたいと思ってた
大丈夫
一歩ずつ
生き返ってきてる
人間になる
なるようになる
この体に慣れるまで
もうすこし
――とある病床に伏した少年の記録。
/6/16『一年前』