隠された手紙
私は迷探偵
手紙を探している
隠 れ家のなか
う さ ぎの小屋
いか れ た人形
壊され た 花瓶
ピンクの 手 帳
先週の新聞 紙
いろいろと探してみたが
見つからなかった
バイバイ
はい、こんばんは。みなさんごきげんよう。
さて、S子が「書いて」というよくわからんアプリ(「お題がないと書けないの?しかたないわね出してあげるわ!書いてみなさい!」の略だと思うが違うかもしれない)に投稿を始めてもうそろそろ2週間になる。その間S子は1日も休まなかった。皆勤賞である。
これは褒められるべきことなのか?
いいや、これはS子の憂鬱症が治ってやる気がでたからでも、一度始めたことは簡単には諦めない、しつこい性格だからでもなく、ひとえにジュエルが気になって仕方がなかったからなのだ。ジュエルというのは、もっと読みたいと思った投稿に送る、いわば「いいね」のようなもので、すなわち誰かに認められたという証である。「ジュエル!欲しい!」がS子の原動力。恥ずべきことである。
誰も読んでなくたって、あなたの書くものはすばらしい。書けただけで十分だ。書こうと思っただけでも花丸だ。というのが、この「書いて」アプリの趣旨ではないか。そうだろう。どこかにそう書いてあった、はずだ、たぶん。
『バイバイ
鶏小屋から 産みたて卵
運ばれていく 荷車で
バイバイ 卵
bye-bye 卵
市場で卵 売買される
倍の値つけても いいですか?
バイバイ 卵
bye-bye 卵
卵が割れない』
「この人もうお気に入りから外していいよね。"卵が割れない"は最近いまいちなんだよね。バイバーイ」
そう言って、S子はお気に入りに登録していた"卵が割れない"を解除した。
認められたがりのS子だが、「あっ、いい!」と思う作品にはすぐにジュエルを送っていた。
だがひとつ困ったことがあった。ジュエルを送るにはお気に入り登録が必要で、ジュエルを惜しげもなく送るうちに、お気に入りが増え過ぎたのだ。何が何やらわからない。そして解除ボタンが見あたらない。
しばらく困っていたが、あるときすんなり解決した。もう一度お気に入りボタンを押せばいい。簡単なことだった。
S子は容赦なく「バイバイ、バイバイ、バイバイ、バイバイ」
と解除しまくっている。
だが、解除した作者に再び出会うこともあるはずで、S子は自分が解除した人だとは気付かずに新しい作品を読み、ジュエルを送ることもあるだろう。そのときには失礼なS子を許してやってほしい。
――ああ、もうこんな時間か。夜更かしは体に毒だ。S子はまだ「バイバイ、バイバイ」とぶつぶつ言いながらスマホに向かっているが、私は休もう。それでは失礼、また会う日まで。バイバイ。
旅の途中
わしは昔 脚に手紙を結んでた
必ず届けて 託された
大事なお役目 伝書鳩
他の鳥には できないことさ
名誉なお役目 伝書鳩
まっすぐまっすぐ 飛んでゆけ
それは長い 旅だった
美しい海 波のきらめき
鮮やかな花 咲く丘に
灼熱の砂漠 蜃気楼
雪の降る夜は 凍えつつ
迷ったんだ 気付いたときには
脚に手紙が ついてない
手紙を落とした どこにもない
大事なお役目 果たせない
手紙をなくした 伝書鳩
手紙がないなら ただの鳩
今ではすっかり おじいさん
子どもの飛ばす 豆鉄砲を
よけきれなくて よろけてる
鳩のじいさん まどろみながら
落とした手紙は どこいった?
今でもそのこと 夢に見る
海の底に 沈んだか
花咲く丘に 転がってるか
砂漠の砂に もぐったか
雪にうもれて 凍りついたか
大事なお役目 果たせなかった
鳩のじいさん 遠くを見てる
旅の途中の あの日々を
今もじいさん むかしの姿で
旅の途中に いるんだよ
まだ知らない君
※※※
きみはまだ 何も知らない
死を知らない
そんな死なんて まだ早い
なぜって 生まれていないから
きみはゆらゆら 浮かんでて
守られている 夢ごこち
きみはまだ 何も知らない
世界を知らない
どんな世界に 生まれ落ち
きみはいったい 何になる
何になっても かまわない
なぜって きみはきみだから
なぜって きみは殻のなか
殻の割れる日 いつの日か
目玉焼きかな オムレツかも
卵かけご飯は TKG
ゆで卵に スクランブルエッグ
それともふんわり カステラに
黄身はまだ 何も知らない
白身もね
――S子著「小鳥の歌」p.47 小鳥の子守歌より
※※※
【本文より抜粋】
"小鳥の世界の子守歌は、意外なことに残酷な現実を歌っていた。だが鳥の子どもたちはこの歌でよく眠る。私ならとても眠れそうにない。とはいえ、これは鶏の話である。小鳥にとっての鶏はどういった位置付けにあるのだろう。大変興味をそそられる。"
※※※
【著者あとがきより抜粋】
"私はある朝、小鳥のさえずりが意味のある言葉に聞こえた。心をしずめ、耳をすます。すると鳥たちは、実にさまざまなことを歌っていた。これは、私が10年にわたり書きとめた小鳥たちの言葉の記録である。"
※※※
「小鳥の歌」絶賛発売中!
日陰
雲流れ 日向日陰になりにけり
草臥れて飲む 焙じ茶優し