青い空を見上げたっていいだろう。
何を願おうと、嘆こうと、喜ぼうと、
響き渡る世界に呼びかけて生きているのだから。
【嗚呼】
秘密の花園に、可憐な貴女。
見つめる子鹿と小鳥に囲まれて、
柔和に微笑んで触れ合っている。
そして大きなドレスを両手で浮かばせ、
歌いながらくるくる回る。
穢れのない幸せを噛み締めながら、
貴女は小さな従者たちを連れて湖畔へと向かった。
貴女は微睡から醒める。
白いカーテンが靡き、微かにすり抜ける日差しに柔肌を照らしている。
軽くなった瞼を開け、白く薄いブランケットに包まれた体を起こす。
おとぎの姫様に憧れていた乙女心に、思わず目を細めて笑みをこぼした。
歌詞は忘れてしまったけれど、
小気味のいい、オスティナートの旋律だけが、
貴女の忘れていた、昔の優しさを思い立たせてくれる。
【ラララ】
風の神は気まぐれだ。
ふとした思いつきで吹き込んでくる。
季節などお構いなしに駆け回る。
鬱陶しいが、頼りになる。
この星が生きている証をずっと運んでいるのだから。
【風が運ぶもの】
花々が長い夢から醒めようとしている。
離れ離れだった淡い世界がやってくる。
あの人に逢えるまでもう少し。
肌を撫でる柔らかい風に弾む心を乗せて。
【芽吹きのとき】
世界が滅びで灰となれど、
この眼に焼きついた過去は鮮やかなまま。
齢と共にたとえ煤けようと、
この魂は老いさらばえて尚も燃える。
躰が土に還る定めにあろうと、
この心は天藍の彼方へと運ばれる。
そして語る者が皆、この世から消えたとき、
我々は見守ることしかできなくなる。
然すれば汝らこの炎を与えん。
かつてを生きた私たちの証を残したまえ。
後世は、過去にあった恐怖を書物でしか知り得ない。
人が作った記録からでは、実態がいかなるかを味わえない。
しかし、私はそれでも構わない。平和とは、無痛のままで恐怖を知れる利だ。愚かしいのは、「あったこと」を無にすることだ。
後世に残せ。忘れるな。
人は過ちを繰り返す生き物。
そのための知であり、そのための和だ。
もう世界を灰で染めてはならない。
麗らかな恵みを広げるために、炎を守りたまえ。
【記録】