刹那に焼きついた出来事を、
微睡のような時のなかで募る私。
【奇跡をもう一度】
朱混じりの黄金色に心を灼かれ、
眠るときまでその眼も奪われたまま。
夜の帳が下りる、そのときまで。
【たそがれ】
君は素知らぬ顔をして過ぎていく。
大地を濡らしながら、空の散歩を続ける。
誰かにとっては面倒な気持ちになるだろう。
しかし、この雫で僕の心は静々と洗われていく。
空が灰色がかって陽が少し陰ろうとも、
淡い安堵感が、僕の身体を包み込む。
荒んだ毎日を、前触れもなく潤す君は、
道ゆくがままに堂々と彼方へ去っていく。
【通り雨】
鬼女らが淑やかに笑みて眺めるは、
黄昏色から移ろうた朱の山。
涼風が金木犀の匂いを乗せて、
晩夏の終わりを告げている。
人の世はまた緋色で染まり、
いずれ枯れるまで紅で賑わう。
湿りも離れ、冬将軍が腰を上げ、
訪るまでの宴は赤いまま。
【秋🍁】
貴方は暗闇のなかにいる。
貴方は一人でいる。
光の糸すらない、黒く塗りつぶされた空間にいる。
何も見えない。
音も気配も、一欠片もない。
ここはどこだと問いたくても、答える人は誰もいない。
貴方は歩き出した。
しかし、変わらなかった。
貴方は手探ってみた。
しかし、何もなかった。
貴方は声を発した。
しかし、響かなかった。
貴方は不思議に思った。
その心は好奇心からではない。
体がこわばった。
何かがこちらを見ている気がしたから。
だが、どこからなのかは分からない。
足が竦んでしまっている。
何かがいる、その予感が錘となって封じている。
喉の奥から飛び出そうな感情を寸前まで抑えている。
そんな貴方は、呼吸が微かに乱れていることに気がついた。
どうしてここにいて、
この出口の兆しもない場所に囚われているのか、
その疑念すら呑まれていたほどに、焦燥していることにも。
貴方は、ようやく意識を整えた。
見えない何かを知るために、心を固めた。
鼻の奥へと空気を深く吸いこみ、
息を押し殺し、そっと耳を澄ませた。
何もなかった。
だって貴方は、一人でいるのだから。
【形の無いもの】