貴方は暗闇のなかにいる。
貴方は一人でいる。
光の糸すらない、黒く塗りつぶされた空間にいる。
何も見えない。
音も気配も、一欠片もない。
ここはどこだと問いたくても、答える人は誰もいない。
貴方は歩き出した。
しかし、変わらなかった。
貴方は手探ってみた。
しかし、何もなかった。
貴方は声を発した。
しかし、響かなかった。
貴方は不思議に思った。
その心は好奇心からではない。
体がこわばった。
何かがこちらを見ている気がしたから。
だが、どこからなのかは分からない。
足が竦んでしまっている。
何かがいる、その予感が錘となって封じている。
喉の奥から飛び出そうな感情を寸前まで抑えている。
そんな貴方は、呼吸が微かに乱れていることに気がついた。
どうしてここにいて、
この出口の兆しもない場所に囚われているのか、
その疑念すら呑まれていたほどに、焦燥していることにも。
貴方は、ようやく意識を整えた。
見えない何かを知るために、心を固めた。
鼻の奥へと空気を深く吸いこみ、
息を押し殺し、そっと耳を澄ませた。
何もなかった。
だって貴方は、一人でいるのだから。
【形の無いもの】
9/24/2024, 11:36:54 PM