友達と楽しそうに話している貴方
共通の趣味で語り合う、そんな貴方の顔はまるで子供のようで可愛らしい
熱くなりすぎて周りの人がびっくりしてるよ、少しは落ち着きなさい
ペットの犬とじゃれあう姿
公園で一緒に走ったり、フリスビーやボールで遊ぶ様子はとても微笑ましい
ペットは飼い主に似る、だったかしら
貴方に似て、とても良い仔ね
難しそうな顔をしてパソコンと向き合う顔
上司の指示、同期のミス、頼まれるのに弱いのね
自宅でも資料とにらめっこ、無茶をしないか心配だわ
飲み会で絡んでくる上司に辟易した表情
付き合い程度でしか飲まない貴方に無理をさせる
仕事の件といい、人事に伝えた方が良いんじゃない?
何事にも一生懸命で真っ直ぐに生きている貴方
そんな貴方を見守り続けられることが何より幸せ
強いて不満足をあげるとしたら、私のことに一度も気付いてくれないこと
私の視線の先には貴方しかいないのに、貴方は此方を全く見ない
貴方の視線の先には、いつも私ではない誰かばかり
でも良いの
見守り続けられる、それだけで良いの
だから
知らない女と手を繋ぐ貴方
知らない女と楽しそうに食事する貴方
知らない女と帰り道にキスする貴方
知らない女とベッドで乱れる貴方
なんで、そんなもの見せるの
私が見守っているんだから
そんな女は要らないでしょう?
嗚呼、気持ち悪い、手が触れて、口付けあって、肌に触れて触れ合って、あの女が彼に触れて、彼が女の、指で触れて、汚い、濡れて、彼がいれて、キスして、腰を振って
汚い汚い汚い汚い汚い汚い
腰を振って、キスして、キスされて、ぐちゃぐちゃ音がする、女の声が響く、ギシギシ、激しく
やめて
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち良さそう苦しそう汚い音が音が気持ち良いの?パンパン名前を呼ぶな気持ち悪いどうしてキスして嬌声触れて切なげに下品なアンアンもっと汚い汚い汚い気持ち良さそう気持ち悪い抱いて触れてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてイクやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ
女の汚い所から、彼が抜き取ると何かが零れてきた
満足そうにキスする二人
「もう一回しよ」
女を見る、けだものの顔、見たことない顔
ずっとずっと見守り続けた男の知らない顔
見たことない顔をした彼の、見つめ、いない、女、汚い女
私の、私、どうして、また繋がって、腰振って、ぐちゃぐちゃ、汚い、ギシギシ、気持ち悪い、アンアン、どうして、イク、満たされない、嬉しそうな顔、けだものの顔、見てよ、見つけて、私を、どうして、子作り、いない私
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと見守って見ていたずっと私は貴方は貴方貴方貴方どうして
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぷちん、と何かが切れる音
目の前が真っ赤になる、歪む視界に映るのは
汚い女と絡み合う汚い貴方
もういいや
「○○とか、ちょーあり得ないんだけど」
「だよねー、何様のつもり?って感じ」
「でも♪︎♪︎に△ったのはウケる」
「それなー」
スマホをいじりながら、毛先の枝毛を眺めながら、派手な爪に合わない沢山のささくれを睨みながら相槌をうつ
「そーいえば■■■が●●●したらしいよ」
「マジでww」
「やっばww、●●●とか人生終わりじゃんwww」
「ね、まあ■■■は◇◇◇◇だし、当然の報いってやつじゃね?」
「そーそー」
適当に買ったペットボトル飲料の蓋を開けて飲む、外れだ
それ以上飲む気になれなくて座っていた段差の端に置いておく
お前など知らない、文句は不味くした製造元に言ってくれ
「####もさ、マジ☆☆だよね」
「ああ、▽▽▽の?」
「マジあり得ねー、ほんっとに┼┼┼してくれないかな誰か」
「wwwww」
「犯罪じゃんwwwウケるwww」
日本人は綺麗好き? 優しい?
なぁにそれ?
下品で下劣な会話を楽しみながら、町の汚染活動に精を出す
「でさ※※※が₩₩₩₩に@@したって」
「それって○○と同じやつ?」
「そうそれ□□□の<><>」
「うっわヤバwww」
よく覚えてたね、あたしはもう忘れちゃってた
覚える必要性を感じないんだもん
「✕✕✕✕で、✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕から✕✕✕✕」
「✕✕✕ww」
「✕✕✕✕✕✕✕に✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕も✕✕✕」
誰かの失敗を笑い、成功を妬み、朗報を踏みつけ、悲報を待ちわびる
自分のことは棚に上げ、今日も誰かのせいにして誰かを罵倒する
いつもと同じ夜の10時半、いつもと同じメンバーで、いつも通りのことをする
「______」
「___________」
「____、______、_________」
空っぽな会話だ、周りに合わせて笑うけど、特別面白くもない
他人を笑い者にするこの人達はきっと、別のグループで自分達が笑い者にされてるなんて知らないんだろうな
私の向かいにいる女、いっぱい股掛けてるの彼氏にバレてるって、知らないよね
隣で笑う女の彼氏、ギャンブルでヤバい借金があるんだって、知らないよね
彼女たちの知らないところで、彼女たちを笑い者にする私
きっと私も笑われてるんだろうね、知らない誰かの話題のネタに
意味のない集まり
意味のない会話
意味のない行動
意味のない秘密
何一つとして意味のない私たち
誰かが何か意味のあること与えてくれないだろうか、なんて他力本願、他人任せなことを頭の隅で考えながら
今日も他人が眩しい昼から逃げ、意味のない空っぽな夜を過ごす
青い空、白い雲、ひまわり畑のなかで笑う君
麦わら帽子を抑えながら、柔らかな髪を風に靡かせる
白いワンピースの裾を翻し、楽しそうに駆け回る後ろ姿
写真は色褪せてしまったが、脳裏には未だに鮮明に写し出される
夏が来る度に思い出す、君との鮮やかな思い出
何十年も前、虹の橋を渡っていてしまったね
あの時と比べると弱々しく窶れてしまったけど
微笑みは変わらず美しい
見届けた最後の姿に、君には見せたことのない涙が溢れた
悲しかったけれど、今でも寂しさはあるけれど、最後に交わした約束が私を歩ませる
息子は素敵な女性と巡り会えたよ、晴れ姿が涙でよく見えなかったのが悔しい
初孫は女の子だった、とても可愛らしいよ。じぃじ、じぃじと追いかけてくるんだ
二人目の孫の学校行事にも参加したんだ、男の子と一緒だからと年甲斐もなくはしゃいでしまった
三人目の孫の成人式、振り袖がよく似合っていた。君との挙式を思い出した
まだ赤ん坊だった息子を残して逝ってしまった君、きっと自分の目で見たかっただろう
そんな君の為にしっかり見届けたよ、語る話は沢山あるよ
一人目の孫は子供にすっかり振り回されているらしい、電話越しに楽しげな声が聞こえて笑ってしまった
二人目の孫は海外にいったよ、やりがいの有る仕事が見つかったらしい、エアメールに同封された写真には頼もしい姿が写っていた
三人目の孫が結婚するそうだ、病室から会いに行くことは出来ないから、せめてと手紙を送ったよ
色んな事があった、山あり谷ありだ
嬉しい事も悲しい事も全て聞かせてあげよう
喜んでくれるかな、驚くかな、もしかしたら泣いてしまうかもしれないね
残り僅かな時間も使いきって、沢山の思い出を作るよ
あの時の約束、ちゃんと覚えているかな?
静かに目を瞑る、周りの音が遠くなる
息子が繋いだ手の感覚も、もう分からない
でも怖くない、気持ちは穏やかだ
だってこれは新たな旅立ちなのだから
白いワンピースを着て、手を振る姿が見える
麦わら帽子の下からイタズラに笑う顔
ひまわりに負けず、明るく美しい
会いに行くよ、愛する君の元へ
何かと中々厄介な奴
冬は暖かな日差しが恋しいけど、夏場はちょっと控えて欲しい
春と秋は過ごしやすいけど、他の問題で有耶無耶になっちゃう
あまりの暑さで太陽に文句を言ってしまったが、きっと昔は違ったんだろうな
ニュースで見かける『過去最高気温』
年配の人たちが言うんだ、「昔はこんなに暑くなかった」
海水温度の上昇による海氷の減少
気候変動、水害
でも太陽は変わらず、いつも通りの温度と光で照らしているんだろうな
変わったのは地球の方なんだよね
変えてしまったのは人間なんだよね
きっと来年も最高気温を叩き出すんだろうな
そしてその次の年も繰り返すんだろうな
元に戻すことは出来ないのかな
直すことは出来ないのかな
ならばせめて、食い止めることが出来れば
悪化を防げれば
先人たちから託された案件
そして私たちも託してしまうんだろうな、次の世代に
なんて外に対して思わせ振りに悩ましげに憂うように見せながら
休みの日にクーラー効いた部屋でアイス食べて、テレビでバラエティー番組を見ながら怠惰に愚痴を吐く
「あぁ、あっつい」
あらゆる化けの皮が汗に流され剥がれてしまう
これも全部、太陽のせい
開けてある窓にかかるカーテンはひらりと揺れては外の景色をちらりと見せる。
無機質なこの部屋から見える彩り、ろくに動けない身体で眺める外の世界が私にとって唯一の楽しみ。正面に見える通路は部活の練習のためによく走っていた、今は全く違う視点から見ている。知ってる道のはずなのに、知らない道のようだ。
入院したばかりの頃は家族も友達も、私を退屈させないために色々と用意してくれた。絶対治るよ、また走れるよ、そう言って渡してくれたのは花束と沢山の書き込みがあるメッセージカード。
漫画や文庫、手遊びにゲームやノート、様々。
でも時間が経つに連れて、訪ねる人は減ってゆく。
それはそうだ、皆やるべきことがあるのだ、日常的に会えなくなった人に、自分の生活に関わることのない人に尽くしてやることは出来ないだろう。
私の両親だって最近は会いに来なくなった、他人なら尚更。
廊下にいる看護師たちの密やかな声、扉越しに微かに。
聞き取れない声に体か強ばる。私を憐れんでるの?
「あぁああッ!」
頭では理解出来てる、でも心は納得してくれない。
衝動のままにベッドサイドの棚から物を払い飛ばす。
かつては彩りの一部だったもの、今や私を惨めにするゴミだ、価値などない。
物音に駆け着けた看護師が声を掛けてくる。
うるさいうるさいうるさい。
ベッドにうつ伏せて、何も見えない聞こえないフリ。
看護師のため息なんて聞こえない、聞こえない。
「びっくりした、怪我してない?」
看護師ではない声に、顔を上げる。クラスメートの女の子、数少ない来客。度々やって来る変な奴。看護師と一緒に入ってきたようだ、肝がすわっているというのか、ただ鈍いのか。
「今日はね、駅前で路上ライブを見たんだけどさ」
そういえば彼女は差し入れの類いは持ってこない、いつも土産話だ。最初は学校の行事やクラスの様子を話してくれたけど、いつからか話さなくなった。最近は彼女の周りで起こったことや見聞きした話しだ。気を遣わせたようだ、私のためにこんなに尽くしてくれる必要なんてないのに。
モヤモヤとした気持ちがまた戻ってくる、ダメ。
「それで、そのオバサンは」
「もう、無理に来なくていいよ」
言ってしまった。後悔、本当に来なくなるかも。
「私なんかのためにさ、ここまでしなくていいんだよ、自分の好きにすればいいじゃん」
ムシャクシャした気持ちを勢いのままに向けてしまった。
こんなこと、言いたかったんじゃないのに。
会いに来てくれる相手に、こんな。
「もう来ないで」
違う違う、なのに本当の言葉が出てこない。
沈黙が痛い、どうして、だってでも。
何も言えなくなった私の表情から何を感じ取ったのか、彼女は微笑む。
「……ん~、ならさ最後に私の語りを聞いてくれない?」
――一目惚れみたいな感じなのかな。大会前かな、放課後に練習で走ってるとこ見た時さ、貴方の表情に、なんか、すごい、衝撃を感じてさ。あ、恋愛って訳ではないよ、多分。ただ、あの時見た表情が、また見たいな、好きだな、もう一回、いや何度でも見たい。うん、ゴメン恋愛否定したけど言葉にしたら自信無くなってきた。ずれたね戻すわ。
とにかくそんな調子だから、見るチャンスを逃したくなくて何かと来てたわけ。うん、もう見れないかも知れないし、けどそんなことないかも知れない。うん、もう前みたいに走れないのは聞いた。でもさ、それでも諦められないのですよ、見たいなって思うわけですよ。我ながらしつこいねぇ。
……世の中、色んなものが溢れていて、出会いも沢山あるわけだから、もしかしたら『走る』以外でもあの顔を引き出せるものが有るのではないかと、期待しているわけですよ。また、見せて欲しいわけなのですのよ、生を謳歌していると言わんばかりの眩しい顔を。君を望んでいるわけですよ、私のためにね。
「口調おかしくなってら。とにかくさ、自分の欲望のままの行動なので気にしなくてよろしいのでして、待って泣くなよぉ」
――私たちまだ若いんだぜ、何もかも諦めるには早いのでは? だからさ、退院したら私と一緒に色んなとこ行こうよ、色んなものに会いに行こうよ
「何だコレ?プロポーズ?」
「自分で言って、自分で疑問になってんの可笑しいでしょ」
久々に笑えた気がする、そっか諦めるにはまだ早いか。
「その顔も好きだね」
「私のこと好き過ぎでしょ」
ほんの少し、彩りが戻って来た気がする。
私たちの色、もっと鮮やかに広がりますように。