霧雨がしっとりと身体を濡らしていく中、傘を持たずに佇む俺の毛先からぽとりと小さな水滴が落ちる。
もう少し強く降ってくれないと困るな、と軽く空を見上げたけれどむしろ雲の合間からは光が射してきた。
頬を伝う水滴は雨粒よりもずっと大きくて、これでは誤魔化せやしない。
あんたにこれ以上心配かけたく無いんですけど。これで俺はちゃんとやってますよ、なんて言っても信じてもらえないですかね。
聞こえない返事に苦笑して、冷たい石にそっと口付けた。
『柔らかい雨』
それは地獄に差し込む救いの光。
貴方の差し伸べたその手は救いであり、破滅への幕開けでもあった。
それでも何度でも俺はその手を掴みに行く。貴方の存在そのものが、俺の人生を照らす真っ直ぐな光だから。
『一筋の光』
美しい男が長い睫毛を伏せて、唇から小さな溜息を漏らした。大きな背中を少し丸めた彼がコートのポケットに手を突っ込んでとぼとぼと、枯葉舞う煉瓦の道を歩く様に道ゆく女性たちが頬を染めて振り返る。
きっと彼の様子に何かあったのだと、慰めてあげたいなどと思っているのだろう。
お生憎様。その人、限定30箱のスイーツ買えなくて拗ねてるだけですから。
本当に可愛い人。
『哀愁をそそる』
祈る。
次に目を開けた時、全てが消えていませんようにと。
貴方の腕も、香りも体温も、優しいこの部屋も全てが幻のように消え去ってしまわないように。
俺が俺として此処に存在できますように。
『眠りにつく前に』
永遠に続くものなど無いのでしょう。
今日は終わり明日になり、春は過ぎ季節は変わる。巡る季節もいつ途切れるか分からない。この地球が未来永劫存在するとはかぎらないのだから。
それでも永遠という言葉を使わせてもらいたい。
俺は貴方の傍に。
命が消えても、この身が朽ちても、魂とかそんな不確かな粒子のようなものが消滅しても。
全てが無に還るまで、ここに居させて。
『永遠に』