思い描く世界は人によって様々だろう。
花で溢れた場所かもしれないし、沢山の人々が行き交う活気ある街かもしれない。
静かな渓谷だったり、絵に描いたような天国のイメージだったり、暖かな部屋だったり。
貴方の目指す世界はどんな姿をしているのか。隣に並んでそれを見たいと思った。
『理想郷』
夕焼けの道で振り向いた君の顔だとか
ラムネの冷たさに細められた貴方の澄んだ瞳だとか
二人で見上げた星空だとか
そんな積み重ねの全てを懐かしく思う
はやく君に/貴方に会いたい
『懐かしく思うこと』
もしあの時こうしていたら、なんて考える事は性に合わないんだ。
僕はいつでも自分に出来る限りのことをしてきたはずだ。勿論力及ばぬ事もあったけれど、それも全て自分の糧にし前を向いて進んできた。
それなのに、どうして君の事だけは悔やんでしまうのだろう。
あの時君に出会わなければ、僕が手を伸ばさなければ、君を手に入れなどしなければ。そうすれば君がこんなにも傷つくことはなかったんじゃないか。
それでも、何度やり直したとしても僕はきっと君を探してしまう。君を求めてしまう。
絡んだ運命の糸は解けぬまま縺れ軋んでぷつりと切れて、その先でもう一度君と出会えたらーーそうしたら、僕らは
『もう一つの物語』
膝を抱え胎児のように丸まり横たわる。ここは暗くて冷たくて、もう大切なものが何処にあるのかも分からなくなってしまった。
それでも一筋の蜘蛛の糸のように貴方の声が聞こえる。
手を伸ばしたくて、能わなくて。
貴方を損なうくらいならこのまま消えてしまいたいのに、貴方はそれを許してはくれない。
『暗がりの中で』
沸かしたての湯を注いだら湯気と共にふわりと立ち昇る香りに過去の幻影を見る。
休日の朝は僕がパンケーキを作り、君が紅茶を淹れる。そんな当たり前の日々は失って初めてその価値に気付くのだと、今更に思い知った。
だって、どうしたって君と同じ香りにならないんだ。同じ電気ケトルで沸かした湯を残っていたティーバッグに注いでもあの頃の香りは再現できなくて。
このまま記憶から薄れていってしまうのだろうか。幸せの香りも、君の笑顔も拗ねた顔も、体温も、全て幻になってしまうのか。
淹れたての紅茶を飲んでも温まらない身体をどうしたらいいのだと、君のところへ聞きに逝きたい。
『紅茶の香り』