〖可哀想〗
未来屋。
そんな胡散臭い看板を立て掛け、一人ポツンと商売をやっている男がいた。スーツ姿にシルクハットという服装がより一層怪しく見えた。
当然そんな怪しい所に寄る人は居らず、男の店の前を通る人々は皆、奇怪な瞳で男を見て通り過ぎて行った。
「私はどんな人の未来も見る事が出来る者なのです。」
「貴方の未来、見てあげましょう。」
声高らかに男は通行人に話しかけていた。
男は丁度前を通りかかった女子高生に「そこのお嬢さんも是非、…」と笑顔で誘っていたが、女子高生は「ひっ…」と怯えた声を出して足早に逃げてしまっていた。
可哀想。私と同じ。
私もある日皆から無視されるようになってしまった。友達も家族もみんなみんな、私を無視するようになった。
酷いでしょ?悪い事なんてしてないのに。あの男もただ商売しているだけなのに、可哀想。
私はそんな未来さんに興味を持ってしまった。
早速私は男に近づき、「あの」と勇気を持って話しかけた。すると男はこちらを見て一瞬強ばったような表情をしていたが直ぐに笑顔で対応してくれた。
「こんにちは。」
「未来を見て下さるんですよね。あの、私の未来も見ていただけませんか?」
私はつい、勢い余って目の前にある机を強くバンと叩いてしまった。男は特に驚いた様子もなく、ただ真剣にコチラを見て、私に言った。
「私は貴方の未来を見る事は出来ません。」
そう断言された。どうして、と私が口を開こうとした時に男は続けて私に言った。
「私が見ることが出来るのは"人間"の未来だけですから。可哀想ですね、未来が無い者とは。」
#未来
〖遊べて良かった〗
祐「ねぇ、今日は一緒に遊ぼう。」
「…ウン、いいよ。何時からにする?」
祐「いつもの場所で、4時にしよう。」
「分かった。」
そうやって祐(ゆう)と放課後に約束をした。
俺はいつもの公園で少し早い時間に待っていた。
「草すごいな……」
二ヶ月前に来た時にはくるぶしくらいだったのに、今は膝まで伸びている。それと、昨日雨が降ったからか地面がぐちゃぐちゃと言っている。お気に入りの靴はいつの間にか泥まみれだった。
まぁこんな事は日常茶飯事なので放っておく。
「もうすぐ4時じゃん。」
持っていたスマホで時刻を確認すると、画面には3時57分と表示されていた。早とちりな俺は時間をチラチラと気にして、ゲームをしながら祐が来るのを待っていた。
「まだかなぁ〜」
ベンチに座って待っていると、後ろから肩を叩かれる。
振り返ると、そこには呼吸を乱している祐がいた。
「ちょっと…さぁ、毎回着くの早くない?」
「そういう性格だからしゃーないしゃーない。」
「僕が遅れたみたいじゃないか。」
「気にすんなってよぉ〜」
祐の細い背中をバシバシと強めに叩いたら、「…君、やっぱりゴリラだろ……」と笑われた。なんかムカついたから肩にデコピン食らわしといた。
それから祐とめちゃくちゃ遊んだ。
二ヶ月ぶりに遊んだからか分からないけどめちゃくちゃ楽しかったし、今まで悩んでいたもの全てを忘れることができてスッキリした。
…だから、帰るのが惜しくなった。
「もう、帰るのか?」
「うん。そうしないと怒られる。」
「…そっか。」
祐の家はルールが厳しい。
門限も大分早く、祐とは部活が無い日にしか遊べない。
「僕、今日とても楽しかったよ。」
「俺も…久しぶりに祐と遊べてさ。…めっちゃ楽しかった。」
「一時間だったけど、君と遊べて良かったよ。最高に楽しかった。本当に、ありがとう。」
「な、なんだよ…」
「じゃあね。」
祐はそういって俺の手を力強く握りしめ、逃げるように帰っていってしまった。祐が帰る時にあんな事を言うのは初めてだった。
なぜか分からないけど彼が帰るのを止めなきゃいけない気がした。でもどうしてか足が動かない。
「ああ…おう。じゃあね。」
結局俺は何もせずただただ、彼の後ろ姿を終始眺めているだけだった。
翌日、祐は自宅のマンションから飛び降りて死んでしまった。
自殺だった。
遺言書には一言、「疲れた」と書いてあったらしい。
#世界の終わりに君と
#僕の世界が終わる時に
人形遊び
私と常に一緒だった子がいた。
その子は、明るくて優しい女の子だった。
私とその子は公園で拾った木の棒をそのまま家に持ち帰ってしまったり、植木の傍でせっせと働いている蟻を何匹か箱に入れて持って帰ったり、泥塗れになって帰ってくることがあった。
その度に母は私達を叱った。
「こら!また、服を汚して…!誰が洗濯すると思ってるのよ、、全く。…早くお風呂に入って来なさい。」
怖かった。
私とその子は返事をして母から逃げる様に風呂場に飛び込んだ。
「怖かったね。」
「うんうん、怖かった。」
湯船に肩まで浸かると2人でクスクスと笑いあった。愚痴も出来事も思い出も、あの子と話すだけで一層面白くなる。
ああ、これから大人になったらもっと楽しいに違いない。そう思っていた。
然し別れは突然来た。私が13を迎えた頃その子は全く姿を現さなくなってしまった。
詳しくは分からないけど、私がその子以外の友達と遊ぶ様になってからのような気がする。
寂しいと感じながらも私は受験勉強に励んだ。
中学を卒業し、高校に無事進学。
幼い頃のやんちゃな私とは打って変わって勉強熱心で真面目になった(と思う)。昔は躊躇無く触っていた蟻も今となっては恐怖でしかない。
昔は……昔はあの子と一緒に虫取りもしたっけか。
ああ、そう言えばあの子は今何をしているのだろうか。
突然私の前から居なくなってしまったあの子。
声も顔も性格も覚えているが名前がどうしても出てこないのだ。
母なら何か分かるだろうか。
思い立ったら即行動、それが私のポリシーだ。
早速私は専業主婦の母に聞いてみた。
「ねぇ、お母さん。私が幼い頃ずっと一緒に居た子、覚えてる?」
「誰よ、その一緒にいた子って。」
「えぇ?覚えてないの?」
しかし母はその子に関して何も分からない様子だった。
とうに昔の事だから覚えていないのか。
「ほら、居たじゃん。茶髪で細身な女の子。よく私と一緒に居たでしょ?私の家にも良く来てたじゃん。」
「そんな子知らないわ。第一、この家に貴方の友達なんて入れた覚え無いわよ。」
この家に友達なんて入れた覚えがない?
そんな事はない筈だ。実際にその子と母は面識がある筈だ。お風呂だって、睡眠だって共にしたのだ。
「そんな事…お風呂だって寝るのだって遊ぶのだって一緒だったのに。」
「寝る?遊ぶ?
──ああ、あの子ってあの人形の事を言っているの?あれならもう貴方が誕生日を迎えた時にとっくに捨てたわよ。」
#突然の別れ
#初投稿