人形遊び
私と常に一緒だった子がいた。
その子は、明るくて優しい女の子だった。
私とその子は公園で拾った木の棒をそのまま家に持ち帰ってしまったり、植木の傍でせっせと働いている蟻を何匹か箱に入れて持って帰ったり、泥塗れになって帰ってくることがあった。
その度に母は私達を叱った。
「こら!また、服を汚して…!誰が洗濯すると思ってるのよ、、全く。…早くお風呂に入って来なさい。」
怖かった。
私とその子は返事をして母から逃げる様に風呂場に飛び込んだ。
「怖かったね。」
「うんうん、怖かった。」
湯船に肩まで浸かると2人でクスクスと笑いあった。愚痴も出来事も思い出も、あの子と話すだけで一層面白くなる。
ああ、これから大人になったらもっと楽しいに違いない。そう思っていた。
然し別れは突然来た。私が13を迎えた頃その子は全く姿を現さなくなってしまった。
詳しくは分からないけど、私がその子以外の友達と遊ぶ様になってからのような気がする。
寂しいと感じながらも私は受験勉強に励んだ。
中学を卒業し、高校に無事進学。
幼い頃のやんちゃな私とは打って変わって勉強熱心で真面目になった(と思う)。昔は躊躇無く触っていた蟻も今となっては恐怖でしかない。
昔は……昔はあの子と一緒に虫取りもしたっけか。
ああ、そう言えばあの子は今何をしているのだろうか。
突然私の前から居なくなってしまったあの子。
声も顔も性格も覚えているが名前がどうしても出てこないのだ。
母なら何か分かるだろうか。
思い立ったら即行動、それが私のポリシーだ。
早速私は専業主婦の母に聞いてみた。
「ねぇ、お母さん。私が幼い頃ずっと一緒に居た子、覚えてる?」
「誰よ、その一緒にいた子って。」
「えぇ?覚えてないの?」
しかし母はその子に関して何も分からない様子だった。
とうに昔の事だから覚えていないのか。
「ほら、居たじゃん。茶髪で細身な女の子。よく私と一緒に居たでしょ?私の家にも良く来てたじゃん。」
「そんな子知らないわ。第一、この家に貴方の友達なんて入れた覚え無いわよ。」
この家に友達なんて入れた覚えがない?
そんな事はない筈だ。実際にその子と母は面識がある筈だ。お風呂だって、睡眠だって共にしたのだ。
「そんな事…お風呂だって寝るのだって遊ぶのだって一緒だったのに。」
「寝る?遊ぶ?
──ああ、あの子ってあの人形の事を言っているの?あれならもう貴方が誕生日を迎えた時にとっくに捨てたわよ。」
#突然の別れ
#初投稿
5/20/2023, 12:39:52 AM