〖可哀想〗
未来屋。
そんな胡散臭い看板を立て掛け、一人ポツンと商売をやっている男がいた。スーツ姿にシルクハットという服装がより一層怪しく見えた。
当然そんな怪しい所に寄る人は居らず、男の店の前を通る人々は皆、奇怪な瞳で男を見て通り過ぎて行った。
「私はどんな人の未来も見る事が出来る者なのです。」
「貴方の未来、見てあげましょう。」
声高らかに男は通行人に話しかけていた。
男は丁度前を通りかかった女子高生に「そこのお嬢さんも是非、…」と笑顔で誘っていたが、女子高生は「ひっ…」と怯えた声を出して足早に逃げてしまっていた。
可哀想。私と同じ。
私もある日皆から無視されるようになってしまった。友達も家族もみんなみんな、私を無視するようになった。
酷いでしょ?悪い事なんてしてないのに。あの男もただ商売しているだけなのに、可哀想。
私はそんな未来さんに興味を持ってしまった。
早速私は男に近づき、「あの」と勇気を持って話しかけた。すると男はこちらを見て一瞬強ばったような表情をしていたが直ぐに笑顔で対応してくれた。
「こんにちは。」
「未来を見て下さるんですよね。あの、私の未来も見ていただけませんか?」
私はつい、勢い余って目の前にある机を強くバンと叩いてしまった。男は特に驚いた様子もなく、ただ真剣にコチラを見て、私に言った。
「私は貴方の未来を見る事は出来ません。」
そう断言された。どうして、と私が口を開こうとした時に男は続けて私に言った。
「私が見ることが出来るのは"人間"の未来だけですから。可哀想ですね、未来が無い者とは。」
#未来
6/17/2023, 11:29:13 AM