yuzu

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9/25/2023, 3:05:01 PM

「…よって、X=3、Y=1となります。えー、ここまででなにか質問ある人いますか?」
先生の言葉を聞き流しながら窓の外を見た。数日前までは満開だった桜並木が半分ほど枯れ落ちどことなく物足りなさを感じてしまう。
こっそり窓を少し開けると、ほんのり暖かい風が一弁の桜を運んでいた。ノートの落書きに紅一点の輝きを落としたそれを私はそっと手で摘んだ。

9/24/2023, 11:20:46 PM

愛しい貴方にプレゼントを贈った。

色とりどりの花束。

貴方は笑った。

愛しい貴方にプレゼントを贈った。

高級ホテルの高級料理

貴方は笑ってくれたけれど、この前より悲しそうだった。

愛しい貴方にプレゼントを贈った。

月夜に煌めくイヤリング。

貴方は少し小さく笑わっただけだった。

愛しい貴方にプレゼントを贈った。

黒が光るブランドバックと

青く輝くエメラルドグリーンのネックレス。

貴方は笑わなかった。

そして貴方は言った。

要らないよ。

どうして?

私は聞いた。

貴方は言った。

私が欲しいのは物じゃないの。

何が欲しいの?

私は聞いた。

貴方は言った。

貴方の想いが欲しい。形にならないものが欲しい。

私は困った。

私は想いをあげる方法が分からなかった。分からなかったから形にしたけれど、貴方は要らないって言ったから。

どうすればいいの?

私は聞いた。

貴方は言った。

2人で一緒にたくさん話してたくさん笑ってたくさん写真を撮ろう。

私は嬉しかった。形にしない方法を知れたからもう貴方を悲しませないから。

私は言った。

じゃあ、今から写真を撮ろう。明日も写真を撮ろう。毎日撮ろう。それから、毎日笑おう。

貴方は笑った。とびきりの笑顔で。







9/22/2023, 10:41:43 AM

強いものに従うのが賢い生き方だ。無理に反発したってどうせ意味なんかないんだから。
強い彼女はクラスの主。彼女よりは少し劣るくらいに、でも他の人よりは綺麗に映るよう容姿に気を使って、彼女の意見に耳を傾けて同調する。
そうやって大人しく従っていれば、従者だってそれなりに楽しく過ごせる。
そんな事も出来ずに反発しようとしたり我を貫いたりすると排除されちゃうの。ほんと馬鹿みたい。



「さっきのマジで有り得なくない!?」
「そうだよね」
「もうさ、あいつのこと無視しようよ」
「うん」

『どうしてそんな事するの?』

ああ、声が聞こえる。




「泣いてんのまじウケるw」
「そうだね」
「動画撮ろーよ」
「分かった」

『ごめんなさい。ごめんなさい』

あ、声がどんどん小さくなってる。




「ほら、盗んで来なよw」
「行ってきなよ」
「早く行ってこいよ」
「そうだよ」

『やめて。もうやめて』

あ、そろそろ消えるかな。




「もう死ねば?w」
「それがいいよ」
「ほら、死んじゃいなよw」

『助けて…』

あ、もう消える。





もう声が消えるな。

私が無視した彼女の声が。

私が無視した私の声が。




もう、声が聞こえなくなるな。



いいのかな?



よくないよ。
『よくないよ』



ダメだよ
『ダメだよ』



もうやめよう
『もうやめよう』



「もうやめよう!」










【解説】
「」 →私が口に出した声
『』→私が閉じ込めた本音の声&彼女(被害者)が思っている
だろうと私が思っている言葉。
かっこなし→私の心の声


我が身可愛さの残酷さと罪悪感、そして少しの正義感という
相対する3つの感情をかっこの使い分けで表してみました。
この物語のように顕著でなくとも、多くの人が日々直面して
いる悩みでは無いかと思います。
ぜひ日常に置き換えながら読んでみて下さい!




9/21/2023, 3:21:14 PM

部活終わりの暗い帰り道、ひゅーと一吹きの風が吹いた。
先日までの暑さを全く感じさせない爽やかな風は、季節が移り変わろうとしているのを告げているように思えた。
「もうすっかり秋だね」
何の気なしに隣の幼馴染みに言った。
「そうだね。日が落ちるのも早くなったしね。もう月が見える」


『I love youを生徒に訳させた夏目漱石は、我君を愛すなどと答えた生徒に日本人はそんな直球に愛を伝えたりはしない、と言ったという有名な逸話がありますね。では問題です。夏目漱石はなんと訳すよう生徒に教えたでしょうか』


ふと、古典の先生の雑談とも呼べる言葉が脳を過ぎった。

目の前には中秋の名月とでも云うべき大きな満月が暗い空に浮かんでいる。日が落ちるのが早くなったせいか、いつもは少なからず人通りがあるこの道に私たち以外の人影はない。
出来すぎた環境の整いぶりに、背中を押されているような気がした。
私は覚悟を決め、足を止めて立ち止まった。
不思議そうに振り返った幼馴染みに精一杯の笑顔を向けた。



「ねえ、月が綺麗ですね」

9/19/2023, 5:55:01 PM

雪が降り積もった冬のある日。
朝焼けを見に行こうと誘った君の言葉に乗って、まだ空に月が浮かんでいる時間に家を出た。マフラーに顔を埋めて寒さから身を守ろうと縮こまる君が差し出した手を握って二人でゆっくりと夜の道を歩いた。
暫く歩いて開けた河川敷に着いた。並んで草の上に腰を降ろしたのは失敗だったかもしれない。二人のズボンに雪がたくさん着いた。
くだらない事を話しながら夜明けを待つ。
「あっ!」
君が小さな驚きの声を上げた。ふと見ると、朝焼けが近づいてきたようで、空が少しずつ明るさを増していた。暫く二人でじっと水平線の彼方を見つめていた。
一瞬のうちに空の色がどんどんと変わっていった。いつもと同じ空のはずなのに、何色もの色を巧みに使い分けて造られた空は、いつもよりずっと綺麗だった。空が藍色から水色に変わって、水色から黄色に変わって、黄色から橙色に変わって、橙色から赤色に変わって、そして最後に朝が来た。
「…綺麗……!」
思わずそう零した君の横顔は数多の色の空の光に彩られていて、つられて思わず零してしまった。
「綺麗…」
ああ、カメラを持ってこなかったのは失敗だったな。カメラさえあればこの時間を永遠に残しておけるのに。ああ、このまま
「時間が止まってくれたらいいのに」





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