罵詈雑言を浴びせる母が憎かった。
母の拳が恨めしかった。
死んでくれたらと願っていた。
母の居ない世界の夢を見ていた。
いざその時が来たら、
遠い昔の記憶が脳裏に過った。
蚊の命ほど儚いその記憶は、今もなお暖かかった。
憎く、恨めしい。
それでも愛おしかった。
私は確かに母を愛していた。
好きなわけが無いのに、
死を望んでいたはずなのに。
それでも嫌いになれなかった。
【テーマ:好きになれない、嫌いになれない】
明けない夜はないとか、やまない雨はないとか。
どれもこれも、非情で無責任な例え話だ。
明けない夜はない。やまない雨もない。
だからどうしたというのだろう。
空がどれだけ変わっても、今この現状は、変わらない。
私は今日も惰性で息をして、死にたいと思って生きている。
ただそれだけ。
ああ、もうすぐ夜が明ける。
また、変わらぬ一日がやってくる。
朝起きて、冷たい水で顔を洗う。
制服に着替えて学校に行く。
授業を受けて、学校からバイト先に向かう。
家に帰ったら、お風呂に入って眠りにつく。
惰性で続ける生活。
生きる意味のない生活。
こんか退屈な毎日が死ぬまで続くのだろうか。
(テーマ:意味のないこと)
気づけば広い野原に立っていた。
川の流れる音が聞こえてくる。数匹の蝶が目の前を舞う。花の優しく甘い香りがふわりと漂う。時折吹く小さな風が木々を揺らし、花びらを掬い上げる。
ただひたすらに穏やかな時間が流れる。
理想郷に私とあなたの二人だけ。
そんな夢を見ていた。
(テーマ:理想郷)
【あいまいな空】
「…ごめんね」
たった一言で、僕の長年の片思いは呆気なく終わった。
君が去った後の教室で、一人静かに思いを巡らせる。
君と初めて話したのは、一回目の図書委員会の集まりの日。君と話すうちに、どんどん君に惹かれていった。
…なんて君はそう思っているかもしれないけど本当はもっと前から僕は君を知っていたんだ。正直自分でも少し気持ち悪いと思うから君には絶対に言えないけど、高校に入学する前から僕は君が好きだったんだ。
中学生の時に見かけた隣のクラスの女の子。太陽みたいな明るい笑顔が素敵な女の子に僕は恋をした。一目惚れだった。
それからは君を目で追ってばかりの毎日で、話しかける勇気も持てないくせにずっとずっと好きだったんだ。
「…ごめんね…かぁ」
改めて言葉にされるとキツイなぁ、なんて考えながら帰り支度をする。
ふと空をみると、太陽が沈みかけて半分になっていた。
もうすぐ太陽はすっかり隠れて、また明日に顔を出す。僕の知らない新しい太陽として。
僕の手の届かない君は、きっとたまその笑顔で誰かを虜にしてしまうんだろう。