fumi

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12/27/2024, 9:13:57 AM

幾多の夢は 泡のように消え
物語の意味は 消失する

わたしはじっと静かに砂時計を見つめている
砂の一粒一粒が スローモーションのようにゆっくりと
世界におちる

朝露が葉からはなれる刹那
水鳥が水しぶきを散らせて 水面を蹴る
蝶は太陽にむかってゆっくりと羽を広げる

だれかがこちらの世界に生まれ出でて 
だれかがあちらの世界へ旅に出かける

精密の中の精密な美しい機械は 一瞬も休むことなく
世界のロジックを刻みつづける 

すべては滞りなく 正しく

わたしは世界を動かす 美しい幾重にも重ねられた金色の輪を想う

すべては滞りなく すべては正しく
変化しつづける

12/25/2024, 10:08:29 AM

イルミネーションのなかを足早にわたしは通り過ぎた。
人工的な幻想空間にたいした思い入れもない。
スマホのLEDの画面があちこちで白々しく光っているのに半ばうんざりしながら、夜の公園に逃げ込んだ。

あちこちで恋人たちが耳元で秘密の言葉を囁きながら、濃密な時間を過ごしている。吐く息は白かったが、何か別の空間に入り込んでしまったように寒さを感じなかった。ベンチに腰を下ろして空を見上げると、黒く染まった木々のすき間から手が届きそうになるくらいに星が降ってきた。
わたしはだれかに今この瞬間に抱きしめてほしいと切実に願った。他のどの時間でもどの場所でもなく、今この瞬間に。
イブの夜は魔性のように、静かに空間に溶けていった。

12/22/2024, 6:13:08 PM

つややかな黄色に包丁をたてると、あのお馴染みの爽やかな香りがふわりと広がった。
真っ二つになった柚子の中身をうまいことくり抜いて、底を少し削る。よしよし、出来た。

猫が食卓の刺身を狙っている。本日の肴は先ほどスーパーで買ってきたカンパチと、南瓜の従兄弟煮だ。
猫の目が、明らかに「くれ」といっている。しょうがないなぁ…というこちらも目尻を下げながら、刺身を一切れくれてやる。猫はひととき野生を発揮して牙を突き立てながら刺身に食らいつく。ほう、そんなに美味いか。
さらに目尻が下がる。

こちらは柚子の皮でこしらえたぐい呑みに酒を注ぐ。
アルコールに浸かった柚子から、さらに香りが立ってさわやかに鼻先をかすめる。
「今年もごくろうさまでした」猫に杯を傾けてから一気に喉に流し込んだ。香りが鼻腔から抜けると一気に広がって、自分が柚子になった気分がする。
脂ののったカンパチは舌先でとろけるように甘い。
サザエさんのエンディングテーマのタマが柚子のようなものをかぶって踊っているのを思い出し、自分も隣で踊りたくなった。
もしや、と思って猫を見たが踊るどころかすでに腹を出してごろりと床で寝ていた。

南瓜をほおばりながら、今年あった出来事をぽつりぽつりと思い出す。
冬至の夜は長い。

12/21/2024, 9:00:30 PM

「大空讃歌」


雨の日は 雨に打たれていよう

風が吹く日は 勝手に吹けばいいさ

雪の日は じっと地面のなかで 春を待つ

雷の日は 地面を踏んで リズムをとって踊ろう

晴れの日は きみがくるのを 待っていよう

12/20/2024, 8:59:16 AM

わたしは、ちいさな石ころだ。

いつぞやか、世界のどこかにひょっこり現れる穴に落ちた。
薄暗い穴のなかで何回も体をぶつけるうちに、次第に体の角がとれ、丸く硬くなって最後は石ころのようになってしまった。

石ころなので、動くことはできない。しゃべることも、何かを表現することもできない。
人から見れば、そこらに落ちている石ころと変わりはない。ただそこに存在しているだけだが、「私」として存在していることを誰も知らなかった。

人から認知されなくなってから次第にわたしは「私」ではなく「石ころ」として存在するようになった。
わたしが「私」でなくなるのは不思議な感覚だった。
世界と私の境界線が曖昧になり、私は伸びたり縮んだりした。
世界はわたしになり、わたしは世界になった。

そんなある日、小さな手がわたしに触れた。

あたたかくて少し湿った感触が、曖昧になった「私」を、ふたたび石ころの中に戻らせた。
小さな手の持ち主は、わたしをポケットにいれて家に持って帰ってきたようだ。わたしはゆらゆら揺られながら、少し楽しい心持ちになった。

男の子はわたしを自分の机の上にのせて、毎日話しをした。
学校や塾での楽しかったこと、嬉しかったこと、ときに悲しかったことも。
わたしは毎日それを聞いていた。

ある日、男の子は自分の母親が死んだときの話しをしはじめた。
目を赤く腫らして、ときに怒りや悔しさも滲ませながら。

石ころのわたしは、石ころのままじっと動かずにいるだけだった。

わたしは石ころの存在をかけて、そこにいた。とても小さな存在でしかないかもしれないけれど。

母親とはなんだろうと思う。
わたしは母親になりたかったのかもしれない。

やがて男の子は涙をふいて、わたしをじっと見て口の端で少し笑った。
それは自嘲していたのかもしれないが、わたしには安堵したようにも見えた。


男の子はしばらくの間わたしに話しをしたが、ある日海辺に捨てられた。

わたしはまた、ただの「石ころ」にもどった。

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