世界にひとつだけ 唯一無二
とても大切な、特別な、ほかに変わりのないもの
しかし本当は世界に同じものはひとつも存在しない
同じ木になったリンゴでも、色もカタチも微妙に違う
大量生産されたリンゴの置物でさえ、あるものは誰かの思い出となり、玄関の靴箱の上にひっそりと飾られ、あるものは子供のおもちゃとなり、あるものはさっさとゴミ箱に捨てられる
時間という運命は、不可逆的な網の目のように私たちをちがう場所へと誘う
一秒前の空を見ることは永遠にできない
私たちは底なしに自由で、私が私でいる確証もない、一秒後にはすべてが終わるかもしれない世界で生きている
自由な翼を手に入れた代償は、足元にひろがった永遠の闇だ
私たちは手をつないで、名前をつけ、同じだと思い込む
足元の闇に囚われないよう、そこに大地があり今日と同じ明日がくると思い込む
そうやって作られた「同じ」世界は、安心、安全できゅうくつな愛すべきたましいの牢獄だ
そこでは自由、違うこと、闇でさえが、もてはやされる
わたしは虫に食われた木の葉を一枚手にとって、ハッとする
空は薄暗く、気味悪い黄色に染まっていた
大地には草一本はえず、虫や鳥もおらず、渇ききってひび割れていた
そこに生命と呼べるものは皆無だった
激しい風が絶え間なく地上を蹂躙し、目や鼻、口に不快な砂粒を叩きつけてきた
私はただ立っていることしかできない
砂粒を避けるように両腕で顔を覆い、どこへ向かっているのか、そもそも自分は今どこにいるのかもわからなかった
私は途方に暮れていた
どうしたらよいのかもわからないし、目印と呼べるものはなにもなかった
ただ耐えるしかなかった
前を向く力は残されていない
かろうじて指の隙間から自分の足元がみえる
私はまだ立っている
座り込んで大地に埋もれてしまいたい衝動にかられるが
自分の中の何かがそれを許さなかった
プライド、葛藤、トラウマ…
名前のついていないそれを苦々しく思った
そういうものに自分はすがっていると思った
思考は迷路にはまり、涙も出なくなったとき、なにか奥底にうごめくものが頭をもたげてくる
それは恐怖でもあり、灯火でもある
おおきな鏡のまえで、膝をついてたってみた。誰もいない、何もないしんとした部屋の片隅できみを想像する。
目の前にうつる自分の姿は想像上のきみであり、きみの目に映るぼくの姿だ。
ぼくはそっときみとの境界線に手をつける。ひんやりとした冷たい感覚が指先からつたわる。
ぼくは目を閉じてきみの手は冷たいはずだと想像する。冷たい雨が落ちてきても、雪がきみの肩に降りつもったとしても、きっときみは傘なんかささないはずだ。
ぼくはそっときみにキスをする。きみの吐息がぼくの頬にかかる。ぼくはぼくの内側が熱くなるのを感じる。
この境界線をこえたらどうなるのだろう。
ぼくがぼくでなくなってしまうのだろうか。
きみを追いかけるということは、そういうことなのだろうか。
大人でも子供でもない思春期
老いてもないけど若くもない中年の中途半端さ
とりのように
たくさんのとりは不吉のアカシ
ひとつのとりはたましいのノリモノ
水面を力強く蹴ると、水しぶきが淡い夢のように飛び散ってゆく
翼の内側の筋肉がこすれて熱くなる
だけども心臓は淡々と同じリズムを打ち続ける
何千年も 何万年も ひたすらに飛び続けてきた体は
太陽に焼かれ 散り散りになり 夕暮れにきえてゆく
とりは最期 なにを思うのだろう
わたしははたして とりのように生きれるのだろうか