『流れ星に願いを』
3回。心の中でお願い事をすると願いが叶う。
なんて、そんなことを言い出したのは一体誰だろう。
そう思いながらも今日も夜空を見上げる。
ふとした瞬間、流れ星が見えることを期待して。
「この旅路が無事に終わりますように」
隣には黙っていれば素敵な彼が眠っている。
まさか新婚旅行で大喧嘩になるなんて。
まだ成田離婚は願わないけれど。
スマホで調べると、もう少ししたら流星群が見えるよというニュースがトップにきていた。
私が別れを願う日と被るのかな、なんて。
意地悪なことを考えながら、冷蔵庫から水を取るためにベッドから抜け出した。
『ルール』
深夜0時を回った頃。自室のバルコニーにリボンで結んだ赤い薔薇を二輪置く。柵の上や近くに置けるとなお良い。
朝、白いリボンが結ばれた赤い薔薇が一輪置かれていたら、近日中に迎えがくるという。
その日から気にかけるのは、虫の音のように小さく澄んだベルの音だけ。薔薇を置いた時間と同じ刻、その音が鳴る。
肯定なら三回、否定なら二回窓をノックする。
窓の鍵を開けてしまえば後は彼の手に身を委ねるだけだ。
それは、令嬢とこそ泥さんとの秘密のルール。
この地方に古くから伝わる遊戯だ。
中には心の底から家を抜け出したくて、彼を頼る令嬢もいるという。
その場合は赤ではなく青い薔薇を、リボンはつけずに置いておく。
青い染料に浸けた白い薔薇を手に取りバルコニーへ。
どうか、私を連れていって。
『今日の心模様』
難しいお題だなあ。
そんなことを思いながらも日課になった書くことを止めたくなくて、心模様の意味を調べてみた。
結果が冒頭の一言である。
今日が今日という1日を指すのなら安定していた。
常にある現状への不安や鼓舞を付け加えるのなら、毎日訪れる今日の心模様は不安定だ。
いざ自分の心内と向き合うとその乱雑さがよく見えた。
見えぬ方がいいのか?見えた方が先行きが明るくなるのか?それはわからない。
私はこんなお題から学ぶ時間が楽しい。
それがここで書き続ける理由なのだろう。
#ずいの雑記
『たとえ間違いだったとしても』
漫画のような恋をした。
漫画みたいに恋に落ちた。
誰が信じるだろう?大きな荷物を持って歩く二人が恋人なのだと。数年前、付き合い始めてすぐに親の再婚で姉弟になった。それは二人の仲を裂く理由にはならなかった。
今二人は、地球を襲う異形との戦場へ向かっていた。
AI装備と電子回路がマッチした姉は戦士に。
弟は姉の、愛しい恋人の側にあるためにメカニックになった。
本当は戦士として一緒に戦いたいけれど素質がないと断言され門前払いを食らった。
親にも、友にも、仲間にでさえ異常だと言われた。
けれど誰に何を言われようとも。
たとえ間違いだったとしても、戦のたびに震える姉の手を取り、怯える体を抱き、愛をささやく唇に自分の唇を合わせる。その役目は誰にも譲らない。
行先のはるか彼方から化け物の咆哮が聞こえる。
「行こう、姉さん」
「うん。貴方とならどこだって行けるわ」
ああ姉さん、愛しい人。
貴女のその言葉さえあれば僕は何だってできるよ。
だからどうか最期までこの手を離さないでいて。
『雫』
走り去ろうとする彼女を引き止めようとしたら足がもつれた。ふり返る彼女と近づく二人の距離。このままではまともにぶつかってしまう。とっさに彼女の腕を掴み引き寄せると、床に背中を打ちつけた。
この痛みは、罰だ。
口下手なせいで大事な彼女を傷つけた。
女性へのプレゼントは難しいからと、安易に異性の従姉妹と連れ添い街を歩いた。美男美女と耳慣れた言葉を流して。彼女がその場にいる可能性を考慮しなかった。
その上想いを伝えるために口づけをした自分への。
振り下ろされるだろうビンタか扇子に耐えるべく目をつむったままでいると、冷たい雫が頬に当たり首元へ流れていった。
「ア、アル様?お怪我は?お怪我はございませんか。ああ、私はなんてことを」
美しい彼女が泣いていた。
君こそ怪我はないかい。そう一言告げればいいものを。
泣いている君が愛おしくてつい抱き寄せてしまう。
そうして可愛らしい小さな額に唇を落とした。