早朝から現在に至るまで垂れ流されていた流行りの飯食うテレビドラマから一時的に開放された君が食卓につく。
「年越し蕎麦、じゃなくてチキンラーメンかあ」
「長っ細いモノなら何でも良いんですよ、まあ、そんなモノ食べたところで寿命なんて変わりゃしません」
用意した白いどんぶりにポイッと乾麺を放り込んで、小皿に置いておいた卵を手にする君。
「お揚げ入れる?」
「コイツさえ有れば何も入りません」
「夜中に腹減っても知らないぞ?」
「その時はスルメでも齧っときますよ」
テーブルの角で卵に小さな割れ目を入れて、どんぶりの上でペカンッと卵を割った。
途端に、君の嬉々とした表情が更に明るくなって。
「見て、ふたご!」
君が両手で包み込むように持って見せてくれたどんぶりの中。
「うわっ、ホントだ珍しい!」
チキンラーメンの上に鎮座する二つの黄身を見下ろし、直後、ヤカンの湯を回しかけた。
テーマ「良いお年を」
ホワイトアウト寸前の吹雪の中。
ようやく辿り着いた藁葺の古民家の引き戸を薄く開ければ、袂に包まれてヌクヌクとしていた黒猫が「お前はもう用済みだ」とばかりに私の腕の中から抜け出して、軽快な足取りで戸の内へと入っていった。
薄情なヤツだな、ため息一つ吐いて再び引き戸に手を伸ばせば、ガララッと音を立てて引き戸が全開になる。
「こんな日に当たるなんて、災難だったな」
ホラ早く入れ、と綿入れを羽織った君がニカッと笑った。
最近では、ヒートショックという危険なモノが流行っているそうで。
「足先とか手とか、末端から掛け湯するんだぞー」
と、浴室と脱衣所を隔てる薄い摺り硝子越しに声をかけられた。
「はいはい、わかりましたよ」
そう言って、手桶になみなみ入った湯をザバッと豪快に肩にかけると、君の忠告を無視して湯船に飛び込んだ。
テーマ「冬は一緒に」
クリスマスプレゼント、親が貰って喜ぶ物とは何だろうか?
服とかは趣味が合わないし、欲しそうにしていた楽器は場所を取る。
この間の健康診断で、糖分塩分油分を控えろと医者に言われたので、お菓子や肉類は駄目。
トンカツとか酢豚とか食べたがるけど、鶏胸肉の素焼きで我慢してもらってる。
商品券とか現ナマは自分の為にとっておきなさい、と言われるだろうし。
花の好みも真逆、そしてペットがイタズラするから置けない。
う〜ん。
――タラバガニ、か?
いや、でも、枕元にタラバガニは、ちょっと……。
いや、まてよ。
足元ならイケるか?
テーマ「とりとめもない話」
腹は膨れない。
病気は治らない。
寒さは凌げない。
役に立たない愛よりも、金が欲しい。
そう願うのは可笑しなこと?
テーマ「愛を注いで」
何か重たい物を下ろす音と共に「ただいまぁ」と君の声がした。
それっきり、リビングに来る気配がない。
なんだ?
キッチン横の洗面所の引き戸から廊下へと顔を出せば、見知らぬ大きな段ボール箱にだらりと凭れている君。
今度は何を持って帰ってきたんだ?
重そうな段ボール箱をズリリ……、と押しながら目の前までやって来た君に問えば、何時ものへにゃへにゃな笑顔が返ってきた。
勤めている店のクリスマスツリーを新調したとかで、今までお店で使っていた方を貰って帰ってきたそうだ。
これで我が家の質素なクリスマスが一気に華やかにゴージャスになるよ!
なんて君がウキウキしながら早速リビングで、バラバラになっているツリーの白い骨組みを繋げていく。
「新しいのは幹のとこまでホワホワァ〜って光るんだよ!それがすっごく幻想的でね綺麗!」
ふふふ、と思い出し笑いをしながら組み上がった真っ白なツリーを「よいしょっ」と立たせれば。
「星、つけられないな」
「うそっ!?」
天辺の一枝が僅かに天井に触れていた。
テーマ「部屋の片隅で」