あら珍しい。
雨粒の落ちる石畳に鮮やかな和傘の花一つ。
近くの傘屋で買い求めた物だろうか?
日を追うごとに増えてきた観光客に、少しずつだが確実に日常が戻ってきたことを実感して、人知れず安堵の息を吐いた。
それにしても綺麗な和傘だ。
茜色の地、白抜きの乱菊には所々に金箔で影が付けられている。
カランコロンと下駄を鳴らしながら、その美しい和傘の主は真っ直ぐ伸びた石畳を歩いていった。
テーマ「柔らかな雨」
夏場はシュッと減っこんでたのに、涼しくなってきたら途端に舞い戻ってきたな。
腹の肉。
プヨンと波打つヘソ周りをペチペチ叩いて、どうにか引き締まらないかと試してみたが無駄な足掻き。
それもこれも、ご飯が美味しすぎるからだよ。
キッチンの方にに向かってそう叫べば「量、減らそうか?」と引き戸から顔を覗かせた君が菩薩のような笑みを浮かべながら言う。
それはダメ!と勢い良く首を横に振って否定すれば、君はクスクスと笑いながら顔を引っ込めた。
テーマ「鏡の中の自分」
ふと、深夜に焼きたてのイングリッシュマフィンが食べたくなって、パジャマの袖を捲ってエプロンを身に着けキッチンに立つ。
ササッと捏ね上げたパン生地を少々厚めに延ばしてコップのフチを押し付けてから、グニグニと左右に捻って丸形に抜く。
コーングリッツは無い、ので白ごまを軽く敷いたバットの上に真ん丸の生地を優しく乗せていく。
惜しい、五個出来てしまった。
他より少しだけ小さく歪になった白いパン生地を、適当なお皿に白ごまを振ってから置いて。
まだほんのり温かいオーブンの中へ濡らした布巾と一緒に放り込んだ。
明日の朝はイングリッシュマフィンだ。
目玉焼きにはベーコンかウインナーか、どっちがいいかな。
なんて心弾ませながら、手と共に粉にまみれたまな板とボウルを濯ぐ。
テーマ「眠りにつく前に」
スマホ一台あれば事足りる、今の世の中が理想郷かもしれない。
適当な店の適当な飯を注文すれば、玄関先まで適当に誰かが運んできてくれて。
可もなく不可もなく、普段通りの味に特に何を感じるでもなく、ただ貪る。
機械的な動作。
話し相手も、人間の糞さ加減を学習したAIがバカ真面目に受け答えしてくれる。
他人の入り込む余地のない、完成されたヒト一人分の世界。
「私」だけの特別な世界。
……でも、まあ、すぐに飽きちゃうだろうね。
やっぱり、現実の方が楽しいもの。
テーマ「理想郷」
見渡す限りの広大な砂漠。
その下には何があるんだろうね。
もしかしたら超古代文明の遺物とかが眠ってたりするかも、と目を輝かせながらテレビのドキュメンタリーを見ている君。
宇宙戦艦は出てこないと思うよと、あの有名なアニメ主題歌のイントロ部分を、少し音痴に口遊む君に言った。
テーマ「友達」