秋風に戦ぐ曼珠沙華の群れ。
揺らめく火の粉のような緋色の花を一輪手折り、稲刈り唄の歌声が聞こえてくる畦道を歩く。
以前来た時よりも人が増え田畑も増えて、山に森に、道が出来た。
そろそろ、ここにも人の手が入ってしまうのだろう。
森の奥、一本の木の前で歩を止めた。
君のために植えた橘の木、暫く見ないうちに見上げる程にまで育ち、懐かしい匂いが辺りに漂っている。
その木の根元に膝をつき。
少しだけ傾いた青黒い石の傍らへ、手にしていた曼珠沙華をそっと置いた。
仕方ないことだ、形あるものはいつか必ず跡形もなく消えてしまうのだから。
テーマ「花畑」
そこに山があるから、みたいなことなんでしょうね。
なにか理由でもつけないとやってられない質なんでしょう。
目の前に転がってる肉を食べるのにも一々理由をつけたがる。
勝手に食えばいいじゃないですか、面倒くさい。
そこにあるから食う、腹が満たされたから寝る、それじゃあ獣と変わりないって嫌がる。
どんだけ取り繕ったところで獣に変わりないというのにね。
哀れなもんですよ、人間ってのは。
テーマ「命が燃え尽きるまで」
歳のせいか最近は目覚ましのアラームが鳴る前に目が覚めてしまう。
頭は重いし、腰も何だか怠い……、歳はとりたくないもんだ、なんて勇退していった上司がボヤいていたのを朝っぱらから思い出して大きく口を開けて欠伸をした。
起きるにはだいぶ早く、かといって二度寝を決め込むには少々危ない時間。
仕方ない、起きてしまおうか。
隣でグースカとイビキをたてて寝ている君を起こさないように寝室から出ると、むわりとした熱気のこもる真っ暗な廊下を転ばないように慎重に歩いた。
テーマ「夜明け前」
手帳の横長のマス目にみっちりと描き込まれたイラスト。
どうやら一日の出来事を描いていたようで、ティーカップや花などの簡単な絵から、よく特徴を捉えられている似顔絵やアニメのイラストが、やはり一マスでは描ききれないらしく見開きの端ギリギリまで広がっていた。
指の湿り気でインクが滲んでしまいそうで、親指と人差し指の爪の先で摘み、ペラリと頁を捲る。
縦横斜めの線に点描、かけあみ、ベタなど、様々な線を用いて描かれたイラストはとてもカラフルに見えるが、どれも一色のペンで描きあげられていた。
なんと惜しい、これだけ描けるのに。
あの子は生きることを諦めてしまった。
パタンと手帳を閉じて、そのまま側の屑入れに放った。
テーマ「カレンダー」
元気に庭木の手入れをしていたお婆さん。
もうすぐ花がたくさん咲くよ、と嬉しそうに話していた。
今、アプローチには色とりどりの花が咲いていて、だけども世話をする人はもう居ないので。
直に枯れてしまうのだろう。
誰に看取られることもなく、ひっそりと。
お婆さんとともに逝くのだろう。
テーマ「喪失感」