目の前で舟を漕ぐ君を見入りながら、食後のコーヒーを啜る。
オリンピックが開催されてから早一週間、開催国との時差のせいで昼夜逆転してしまった君。
朝食のトーストにバターを塗りながら、かくりこくりと首が揺れて。
ビクンっと身を震わせた君が瞼を開けて、それからまたゆっくりと伏せていく。
かくんかくんと揺れる頭、開閉を繰り返す瞼、大きなあくび。
いつもなら君と他愛もない話をしている時間なのに、君は半分以上夢の中だ。 面白くない。
目尻に溜まった涙を拭おうとした君の手を掴んで、テーブルに身を乗り出し、日に焼けた目尻にチュウと口付ける。
「目が覚めた?」
君の涙で湿る唇をペロリと舐めて笑えば、目をまん丸にした君がこくこくと頷いた。
テーマ「もし、明日晴れたら」
最初から何もなければ辛くないでしょう?
失うものは何一つ無い。
何も縛らず何にも縛られず、この身も心も全て、ただ私だけのもの。
それはとても幸せだと、私は思うんです。
あなたのことを好ましく思っているのは確かです。
ですが、私は、誰かを縛りたくはありませんし、また、私の心身を、幾ばくかの残り時間を、誰かに割きたいとも思えないのです。
あなたは無駄な時を過ごし、満たされず、ただ傷つくだけでしょう。
ですから、どうかこんな独りよがりで臆病な私のことなど忘れてください。
テーマ「だから、一人でいたい」
血に塗れた街で平和の祭典が行われている滑稽。
数多の首が転がり、血で汚れた広場に群がる群衆は、あの時と同じように下卑た歓声を上げている。
狂喜乱舞、これが民草の望んだ自由の末路か。
これでは、どちらが悪魔か分かったものではないな。
蛆虫の如く蠢く人間どもを塔の上から見下ろして、重苦しい息を吐いた。
テーマ「嵐が来ようとも」
お題「お祭り」458
あんまりにも暑い日が続くので、クリスマスのプレゼント交換で貰ったビニールプールをベランダに出した。ギチギチしてる。
ビニールプールの縁にホースの出口のほうをテープでとめると、キッチンの蛇口にホースのもう一方の口を、取り付けて。
ペイッとハンドルをはね上げて、ベランダにとんぼ返り。
ビニールプールの底に、水が跳ねながら溜まっていく。
ホースから出てくる温い水が段々と冷たい水へと変わっていき、さっそく両足をプールの中に入れた。
踝まで、だが足裏が冷えて気持ちいい。
早くいっぱいにならないかなあ、と足の指を閉じたり開いたりしながら、マイペースに水を吐きつづけるホースを見つめた。
テーマ「お祭り」
保険証の裏側の臓器提供の欄、今年度も全て黒く塗り潰す。
辛い時も苦しい時も、誰にも助けてもらったことがないのに、なんで私は誰かを助けないといけないわけ?
私は私のために食事制限して運動をして、病気にならないように気をつけてる。
努力の一つもしていない、怠惰の極みのような奴等に無償譲渡する為にそんな事をしてるわけじゃない。
自分が助かる為に他人の死を願ってる奴等に、なんで私の臓器を提供しなきゃいけないの?
自分の身体を粗末に扱ってきた罰だろ?
浅ましい奴等、大人しくあの世に逝けよ。
テーマ「誰かのためになるならば」