産声を上げることなく死んでしまった妹の墓は無く。
父も母も逝った今では、覚えているのは私だけとなった。
名もない顔も知らない私の妹、その柔い小骨は炉内で燃え尽き灰の一粒すらも残すことができなかった、哀れな妹。
光り輝く美しい世界を見ることなく、家族の温かさを知ることもなく、暗い腹の中で命を止めた妹へ。
今年もまた、花を一つ手向ける。
テーマ「遠い日の記憶」
力の限り、勇者が剣を振るった。
王座にふんぞり返って「土産」を見ていた傲慢な王の首を勇者が刎ね飛ばした。
その首が冷たい石の床に跳ね、共に落ちた豪奢な王冠の金属音が止むまで、王の家族は疎か王を守る近衛兵ですらもガーゴイルのように固まっていた。
それだけの時があれば、こちらの要件は済む。
手始めに私達を召喚した術士を虫けらに変えてやり、瓶詰めにしてやった。
数多の魔物を屠ってきた私達『生き残り』の勇者一行にとって近衛兵達はスライムと同等、固まったままの彼等をまとめて刻めば漸く王の家族が騒ぎ出す。
身重の身体で逃げようとする后の両足を戦士がハンマーで潰し、二人の王子と王女の足も同様にしていく。
これも私達が世界に帰る為だ。
手早く描いた魔法陣の中に王の家族と瓶、それから「土産」である魔王の死体を放り込めば、魔法陣の赤黒い線がオーロラのように青く輝きだした。
やっと帰れる。
心底嬉しそうな安堵の表情を浮かべた勇者達と顔を見合わせて、一歩また一歩と魔法陣へ近づいて。
ふと見た魔王の顔、一瞬だけだが口角が上がったような気がした。
テーマ「終わりにしよう」
ぎっくり腰って、やっぱり世界共通なんだね〜。
ベッドの上でうつ伏せになって、辛そうにうめき声を上げている君を見下ろして言えば、「当たり前でしょう?」と地の底から響いてくるような重苦しい声が帰ってきた。
君も人間だったんだな、と心の中で思いながら湿布を貼るために穿いているズボンをずらそうと手をかけると、どうやら触れるだけで痛みが走るようで。
普段は聞くことのない、君の少々情けない悲鳴が上がる。
我慢我慢、と君に笑顔を向けてズボンを下ろしパンツのゴムをグイッと引っ張ってから、君のキュッと引き締まった腰に湿布を優しく貼っていく。
こんなに引き締まってるのにぎっくり腰になる不思議。
バチンっと勢い良く戻ったパンツのゴムに「ぎゃあ゛あ゛っ!」と、また君が悲鳴を上げた。
テーマ「手を取り合って」
君の膝の上に寝ていいのは僕だけ!
君に抱っこしてもらえるのも僕だけ!
君からおやつを貰えるのも僕だけ!
君の全部、ぜーんぶ僕のなの!
なのにアイツは何なんだ!
僕から君の全てを奪って、我が物顔で威張りくさっている。
あのバカでかい芋虫!
君は芋虫に付きっきりで、僕は下僕のカチコチしてる腕の中でイライラ。
むしゃくしゃして下僕の腕で爪研ぎしてやった。
ぎゃあぎゃあ五月蠅い下僕にパンチを何発かお見舞いしてから、ピョンっと棚の上に乗っかって、そのままゴロンと横になる。
君が芋虫に飽きるまで籠城だ!
テーマ「優越感、劣等感」
刑事もののドラマでよく、遺体に犯人の毛髪が付着していた、とかってあるけど。
もし、全く無関係の人の髪の毛だったらどうするんだろ?ってドラマで見る度に思う。
風の強い日なんかだったら、遠くまでフワフワ飛んでいきそうじゃない?
タイミング悪く近所で事件が起きて、そこに抜け毛が着地しちゃったら、もしかして犯人にされちゃったりする?
現実にはウキョウもマリコも、クライシすらも居ないわけで。
あれよあれよと犯人に仕立て上げられて、強面な刑事に自白を強要されちゃう?やだ、冤罪!
検察もグルなんだよ!もう皆グル!あ〜やだやだ
「馬鹿なこと言ってないで仕事してくださいよ、先輩」
心底呆れましたといったような後輩の顔に「は〜い」と応えて、目の前のキーボードを指でパチンパチンと弾いた。
テーマ「1件のLINE」